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国際協力機構（JICA）が国内の4市をアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定した構想が、開始直後から激しい議論を呼んでいる。移民受け入れの是非と直結させた誤情報が拡散し、自治体は説明対応に追われた。一方で、人口減少や人手不足を抱える地域は交流の実利に期待を寄せてきた。構想は見直し局面に入ったが、その先に何を目指すのかが問われる。
火種になった「ホームタウン」とは何か
構想の骨格は、JICAの研修事業を足場に、アフリカの若い人材を日本の自治体や地元企業でインターンとして受け入れ、互いの課題解決につなげるというものだ。政府は、この受け入れは期限付きの研修であり、終了後の帰国を前提に設計していると説明している。認定は4市に限られ、地域間の継続的な人材交流とネットワークづくりを狙うとされた。制度の看板が立つや否や、構想の射程を巡る見方が分かれ、賛否の空気が一気に混ざり合った。
誤解に火が付いたのは、研修を恒久的な就労や移住と混同する言説が広がったからだ。2025年8月26日、林芳正官房長官は記者会見で「移民の受け入れ促進ではない」と明確に述べ、相手国向けの特別な査証創設も想定しないとした。さらに、日本側はナイジェリアの「日本が特別ビザを創設する」との発表に事実関係を説明し、訂正を申し入れたと明らかにした。事業の趣旨は人材育成と交流の回路をつくることにあり、移住政策の抜け道にする意図はないというのが政府とJICAの立場だ。
なぜ「移民」と結びついたのか
背景には、日本の外国人受け入れを巡る長年の不信が横たわる。技能実習制度では、失踪や不適切な扱いが相次いだ現実があり、難民申請の繰り返しが長期滞在につながる事例も社会の記憶に残る。人材受け入れの制度設計と運用にほころびが出れば、名目と違う結果を生むのではないかという疑心は根強い。人口減少に直面する地方ほど、労働力の確保と地域の持続可能性をめぐる焦りがある。交流の間口を広げたい思いと、制度の歯止めを確かめたい警戒心が、今回も正面からぶつかった。
実際、「移民が押し寄せる」といった断定的な文言がネットに流れ、受け入れ自治体は問い合わせへの対応に追われた。ホームタウンという言葉が「移住先」と誤読され、制度の細部が知られないまま恐れだけが増幅する構図である。ここには、政府やJICAの丁寧な情報提供の不足も見えてくる。研修の期間や人数の枠組み、帰国に関する手順など、実務の説明が届かなければ、社会は想像で空白を埋める。誤情報が芽吹く土壌を手入れしない限り、どの新制度も同じ轍を踏みかねない。
見直しの行き先と、いま必要な説明
議論が高まるなか、2025年9月16日、林官房長官は事業の「今後のあり方について速やかに結論を得るべく、検討を進めている」と述べた。政府とJICAは受け入れ自治体とも協議を重ねるとしており、制度の位置づけや運用の基準を改めて整える段階に入った。現時点で確認されている範囲では、政府の基本線は「研修は期限付き」「終了後は帰国が前提」で一貫している。見直しの行方については、白紙撤回を含む幅広い選択肢を想起する向きもあるが、まずは制度の理解を広げるための情報公開が急がれる。
必要なのは、社会の不安を先回りして解く具体性だ。例えば、受け入れ人数の上限設定と、その算定根拠の公開。研修期間の標準と延長の可否、帰国確認の手順の明記。自治体や企業の負担と国の支援の線引き、トラブル時の連絡体制までを見える化することが肝心である。地域の人材育成や企業の国際化という本来の目的を実感できれば、交流は持続力を得る。人口減少への対策は別途の政策領域として整えつつ、人と人の学び合いの回路を丁寧に設計し直す。その順番を誤らなければ、この騒動は日本の受け入れ政策を一段成熟させる機会に変わるはずだ。
