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曇り空のブリュッセルで、欧州連合のカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表が、対ドローン防衛を「2027年末までに完全運用」と言い切った。ロシアの侵攻が長期化し、空からの脅威が日常化する欧州で、言葉を能力に変える行程表が動き出した。狙いは2030年、欧州の防衛体制を実戦水準に整え、想定し得る危機に耐える備えを確立することにある。
ドローン防衛を「任意ではない」とするEUの覚悟
2025年10月16日、カラス氏はブリュッセルでの会見で、ドローンが戦争の様相を塗り替えつつある現実を直視すべきだと強調した。新たな対ドローンシステムは2027年末までに「完全運用」を目指し、NATOと緊密に歩調を合わせて実装する構想だという。空からの小型・多数の脅威に対し、欧州の防空網を多層化する狙いがにじむ。
同氏は、加盟国が単独では対処しづらい短所を連合で埋めるべきだとも述べた。すでにオランダとラトビアが先導するドローン分野の初会合が動き始め、各国に対ドローン投資と、地上目標を打撃する能力の強化を促した。「誰にとっても、ドローン防衛はもはや任意ではない」との訴えは、議場の空気を引き締めたと映る。
東側の国境線には、複数領域の能力を束ねる「イースタン・フランク・ウォッチ」を据え、2028年の稼働を見込む。カラス氏は、対ドローンに加え、地上防衛、統合防空、海上、そして国境管理までを一体で備えると語った。猛スピードで変化する戦場に、欧州として統合した防護のシールドを張る発想が浮かぶ。
2030年へ、EUが埋めたい「能力の穴」
欧州委員会が示す「Readiness 2030」は、能力のギャップを共同開発と共同調達で塞ぐ道筋を描く。委員会は、1.5％のGDP増額で約6,500億ユーロの財政余地が生まれるとの推計を示し、ミサイル防衛、ドローン、サイバーなど重点分野への投資を後押しする。1,500億ユーロ規模の融資枠SAFEも用意され、各国計画に沿って資金を供給する設計である。
調達の「分散と重複」を減らすことも急務だ。カラス氏は共同調達の比率を2027年までに防衛支出の40％へ引き上げる目標を掲げ、規模の経済で生産能力を底上げし、単価を抑える必要を説いた。弾薬・防空・無人機対策の増産は、在庫を切らさない持続性の観点でも欠かせないとみられる。
ロードマップには、ウクライナへの安全の保証も織り込まれた。戦場で磨かれた技術と運用の知見を取り込むため、2026年初頭までにウクライナとの「ドローン同盟」を立ち上げる計画だという。前線の経験を欧州の標準へ反映させることで、机上の戦略を実働の能力へと引き上げる狙いが広がっている。
揺れる安全保障環境と同盟の役割
欧州の安全保障環境は落ち着きを取り戻していない。カラス氏は、ロシアのミサイルや無人機が欧州の空域に影響を及ぼしている現実に触れ、戦争が終わっても危険は消えないと語った。国境地帯をまたぐ低空・低コストの脅威に対し、平時からの監視と即応体制の常態化が求められている。
同時に、NATOは東側正面の空を守る態勢を強めてきた。常時警戒の戦闘機運用や防空の増強は、同盟の抑止姿勢を可視化する役割を果たす。EUの新計画はNATOと重複するのでなく補完することを前提に進むとみられ、対ドローン網の整備も「緊密な協力」の下で加速する構図だ。
焦点は、政治合意と実装力である。加盟国の承認手続き、産業の増産、共同調達の運用、そして現場部隊への落とし込みまで、すべてが時間との競争になる。危機が続くほど「準備の遅れ」はコストとして跳ね返る。欧州が示した期限とマイルストーンを、どこまで現実に落とし込めるかが試されている。
