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テヘランの講堂でざわめきが静まると、黒いターバンの男はゆっくり言葉を置いた。2025年11月3日、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師が、米国のイスラエル支援や域内での軍事駐留を名指しし、「協力は不可能だ」と線を引いたのである。6月のイラン・イスラエル交戦と米軍の核施設攻撃が残した亀裂は深く、核協議の再開は霧の向こうに揺れていると映る。
学生の前で示した断固姿勢
聴衆に若者が多いこの日の面会で、ハメネイ師は米国との関係について3つの条件を挙げた。イスラエル支援の完全停止、中東に展開する米軍基地の撤収、そして域内干渉の終結である。いずれも達成されない限り協力は「今も近い将来も考えられない」と強調し、対米関係は戦術的な駆け引きではなく「相反する二つの流れの衝突だ」と位置づけた。
発言は11月3日にテヘランで行われた学生との集いで示されたもので、国営系の伝え方は一貫している。米国側が交渉の用意を示しても、前提条件の大きさから実務的な協力に踏み出す見通しは立たないという空気が漂う。現時点で確認されている範囲では、声明は自国の「抵抗」路線の正統性を改めて刻む意味合いが濃いとみられる。
一方で、米国ではトランプ大統領が10月に「イランが準備できればディールを」と語ったと報じられ、対話の余地をにおわせた。だが、その言葉とこの日の断言との距離は大きい。ロイターは、米側の呼びかけに対しイラン側が根本的な条件を突き付けた構図を伝え、溝の深さを浮かび上がらせている。
6月の交戦が残した溝
現在の緊張を語るには、2025年6月の連続的な軍事衝突を避けて通れない。6月13日、イスラエルはイラン国内の拠点を大規模に空爆し、100カ所超を標的にしたと分析されている。日本の防衛省・防衛研究所は、この先制攻撃が軍・核関連の要所に広範に及び、イラン側の要人死去も招いたと暫定評価を示した。衝撃の記憶は、国内世論の硬化にもつながったと映る。
続く数日で情勢はさらに緊迫し、6月下旬には米国がイランの核施設に対して攻撃を実施したと複数報道が伝えた。標的はフォルドー、ナタンツ、イスファハンの中枢とされ、米国は破壊効果を誇示したが、国際原子力機関による放射線の異常検知は報告されていないとの情報もある。攻撃の法的評価と軍事的効果をめぐり、各国の受け止めは割れている。
一部メディアは6月下旬に停戦合意が成立したと伝えたが、根底の不信は解けていない。ロイターは「12日間の戦闘」を経て米国の参戦が関係をさらに損なったと整理し、日本メディアも米軍の関与を詳報した。戦闘の余波は、交渉のテーブルに座るための政治的コストを押し上げ、今回の断言の背景に濃い影を落としているとみられる。
核協議の足踏みと読み合い
米国とイランは複数回の核協議を重ねてきたが、6月の交戦以降、歩みは鈍っている。現時点で確認されている範囲では、ウラン濃縮をめぐる隔たりが最大の障害であり、一部報道によれば西側はリスク最小化のため濃縮停止に近い措置を求める一方、イランは国内権益と安全保障上の理由から後退を拒んでいる。条件闘争が本質的な力学を映している構図だ。
トランプ大統領の「協力の手は開かれている」というメッセージは、国内外に向けたシグナルとして一定の意味を持つ。しかし、今回のハメネイ師の言葉は、協力の前提に厳しい三条件を置き、「近い将来に検討余地はない」と釘を刺した。交渉窓口を閉ざしたというより、相手の立ち位置を試すための高いハードルを示したと読むべきかもしれない。
対話と抑止のあわいで、双方は世論と同盟、抑止力の三角測量を続ける。6月の記憶が生々しい中で、学生の前で語られた断言は国内結束を促す効果を持つ一方、外交の余白を狭めるリスクもはらむ。冬の気配が近づくテヘランで交わされた短い一言に、長い季節の気流が重なるように感じられる。
