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白い航跡が海風にほどける。11回目の飛行試験を終えたばかりの超大型ロケット「Starship」を背に、SpaceXが次の一手を差し出した。低軌道衛星網「Starlink」の次世代衛星「V3」を投入し、ギガビット級の接続と大幅な容量拡張を実現する構想である。電力網や光回線の外縁に暮らす人々に、ついに日常レベルの高速通信が届くかもしれないという期待が広がっている。
巨大化する衛星、狙うのは「ギガビットの日常」
11回目の試験機が上空を駆け、管制室のざわめきが緩む。配信画面に切り替わったのは、これまでより大ぶりの衛星が次々と展開されていくイメージだ。SpaceXは次世代の「Starlink V3」がユーザーにギガビット級の接続をもたらすと示し、ネットワーク全体の実効容量を跳ね上げる設計思想を前面に押し出した。日常的に動画会議やクラウド作業をこなす水準を、電柱も光ファイバーもない土地へ届ける狙いが浮かぶ。
現時点で確認されている範囲では、V3の投入により1回の打ち上げ当たりネットワークへ毎秒60テラビットのダウンリンク容量を追加する設計が示された。これは従来のFalcon 9で運んでいたV2 Miniの「1回分」と比べて20倍超の能力に当たると報じられている。単に衛星数を増やすのではなく、衛星1機あたりの処理能力を引き上げ、混雑時間帯の頭打ちを崩す発想と映る。
機体は文字どおり大きく重い。報道ではV3衛星の重量が最大で約2トン級に達するとされ、600キロ級だったV2 Miniから大幅な増量である。大面積のフェーズドアレイや次世代のモデム、スイッチングを抱え込む分、打ち上げ手段の最適解は変わる。Falcon 9ではなく、超大型のStarshipが前提になる構図だ。価格や端末の互換性など、ユーザー側の要件がどう整理されるかは今後の詰めとみられる。
スターシップ11回目成功が開いた扉
11回目の飛行試験は予定どおりのプロファイルで進み、SpaceXはそのライブ配信の中でV3の展開イメージを明確に打ち出した。大型衛星を多数まとめて投入する発想は、ロケットそのものの積載力と再使用性を裏付けにして初めて現実味を帯びる。いわば「大容量を塊で運び、即座にネットワークのボトルネックを外す」というシナリオが視界に入ってきた格好である。
一部報道によれば、StarshipからのV3展開は、1回のミッションでネットワークに60Tbpsを加える前提で語られている。衛星1機あたりのスループット向上と、1回で投入できる衛星数の増加が相乗し、混雑時間帯の実効速度や可用性の底上げにつながる構図だ。これにより都市周縁の固定代替から、災害時の臨時回線、さらには企業の専用線代替まで、使い道の幅が一段広がるとみられる。
もっとも、打ち上げ時期や商用提供の具体的な開始日はまだ示されていない。新ハードウェアの導入や周波数運用の整備、地上局の増強など、現場でのチューニングは欠かせない。2025年10月15日までに公表・報道された情報を突き合わせる限り、SpaceXはStarshipによる高頻度運用を前提に、段階的にV3を重ねていく計画を描いているように見える。次の試験結果が、その速度計になるはずだ。
高速網の期待と、夜空へのまなざし
現行のStarlinkは、月額や端末費が安価とは言いがたい一方、通信手段が乏しい地域では実用的な選択肢になってきた。V3で容量と安定性が伸びれば、学校や診療所、農漁業の現場での常時接続が現実に近づく。衛星側の混雑が解消すれば、上り下りの遅延やパケットロスが抑えられ、ビデオ会議や遠隔監視の体験は一段引き上がる。地域の営みそのものが、ネット接続を前提に組み替えられていく光景が浮かぶ。
一方で、夜空に線を引く軌跡は天文学への影響を避けて通れない。可視光の明るさは衛星の設計や運用高度、太陽との位置関係で変わるが、観測への干渉は広く議論されてきた。過去の測定では、反射低減策を講じた機体でも一定の明るさが観測されている。運用高度の見直しや姿勢制御の工夫で影響は抑えられるとの知見もあるが、V3のサイズ増は新たな検証を要するテーマである。
衛星通信の拡充と夜空の保全は対立ではなく調整の対象だ。衛星の減光策、観測の時間帯回避、データ処理側の補正など、二者の歩み寄りは既に始まっている。V3の配備が進むほど、科学コミュニティとの対話は重要度を増すだろう。高速化と静けさの折り合いをどこに置くか。巨大ロケットの轟音が去ったあと、通信インフラの未来をめぐる静かな合意形成が求められている。
