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南シナ海の洋上で、クレーンが静かに海面へと降りていく。その先には、米海軍の戦闘機F/A18「スーパーホーネット」とMH60ヘリコプターの残骸が横たわっているとみられる。2025年10月26日、空母ニミッツから発進した2機が相次いで海に墜落し、いま米軍は深い海底からの引き揚げに懸命だ。背後には、機体を先に手に入れようとする中国との見えない競争も透けて見える。
相次いだ墜落と極秘の回収作戦
事故が起きたのは2025年10月26日午後2時45分ごろだ。空母ニミッツで通常任務に就いていたMH60Rシーホークが南シナ海に墜落し、3人の乗員は直後に救助された。約30分後には、同じ艦から発艦したF/A18Fスーパーホーネットも海に落下し、こちらも2人が無事に回収された。米太平洋艦隊は原因を調査中とする一方、トランプ大統領は記者団に燃料の汚染が要因かもしれないと語り、真相への関心を一段と高めた。
その直後から、米海軍は現場海域にサルベージ艦を展開したと明らかにしているが、具体的な位置や進捗は公表していない。第7艦隊の報道官によれば、軍事海上輸送司令部が運用するセーフガード級救難艦USNSサルボアが投入され、機体の引き揚げ作戦を支援しているという。セーフガード級は甲板のローラーやウインチを組み合わせて最大300トンを持ち上げる能力を持ち、艦載機1機の最大離陸重量が数十トンであることを考えると、技術的には十分対応可能とみられる。2021年には沖縄沖の水深約5800メートルからMH60Sを回収した実績もあり、深海での捜索と引き揚げは米海軍にとって慣れた任務になりつつある。
海底で進む技術情報をめぐる攻防
今回沈んだF/A18とMH60はいずれも最新鋭機ではないが、機体構造や電子機器、残存しているソフトウェアは依然として機密性が高い。米太平洋軍統合情報センターの元責任者カールシュスター氏は、残骸の一部でも中国側が入手すれば、米軍の強みや弱点を分析し、対抗手段を練るうえで大きな材料になると指摘する。F/A18が中国の手に渡った例はこれまでないとされるが、もし詳細なデータが得られれば、中国海軍の艦載戦闘機J15Tの改良に生かされる可能性があるという。
一方で同氏がより警戒するのがMH60に搭載された対潜水艦戦システムだ。対潜水艦戦とは、潜水艦を探知し追跡し、必要に応じて攻撃するための一連の作戦を指す。米国製ヘリに積まれたソナーや信号処理技術は、中国が運用する装備より高性能とみられ、解析されれば中国軍の対潜能力向上に直結しかねない。中国が実際に引き揚げを試みているかは確認されていないが、南シナ海の海底では、互いの姿が見えないまま情報をめぐる静かなせめぎ合いが続いていると考えてよいだろう。
