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与党内の部屋で紙束が配られ、静かなざわめきが広がった。高市早苗政権が、国家安全保障戦略など安保関連3文書（国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画）の改定に向け、非核三原則の扱いも論点に乗せる検討に入った。複数の政府関係者が2025年11月14日に明らかにし、政策の重心が揺れ始めている。
与党で始まる静かな準備
政権幹部は周囲に「まずは与党で議論を」と語り、手順を整えつつある。首相は2025年11月11日の衆院予算委員会で、非核三原則の堅持を問われても明言を避け、「3文書はこれから見直し作業が始まる」と述べた。慎重だが、議題の枠は広げる構えだ。
三原則は「持たず、作らず、持ち込ませず」とする政府の基本方針で、1967年に佐藤栄作首相が表明して以降、歴代内閣が堅持してきた。だが近年、周辺の核戦力の近代化が進み、米国の抑止力の運用とどう整合させるかという実務の問いが、与党内で存在感を増している。
政権関係者によれば、首相は国際合意の枠組みを重視し、「持たず」「作らず」は維持する意向だという。一方で、「持ち込ませず」を厳格に運用すると、米軍の艦船や航空機の寄港・一時立ち寄りに制約が生じ、抑止の実効性に影響しかねないとの懸念が根底にある。
焦点は「持ち込ませず」の運用
非核三原則（核兵器を持たず・作らず・持ち込ませずという政府方針）のうち、実務で最も揺れやすいのが3つ目だ。米国は核の搭載有無を明示しない運用慣行があり、日本側は事前協議制度を通じて「配備や持込みは認めない」と整理してきたが、寄港や通過の扱いで解釈の幅が生じる。
首相周辺は、拡大抑止を点ではなく線で成立させるには、平時からの接続性を高める必要があるとみる。核拡散防止条約NPT（核拡散を防ぐ国際条約）を前提にしつつ、非核の理念と同盟運用の接点をどう描くか。運用の透明性、住民理解、事故時対応など、技術的課題も不可避だ。
一方で、被爆の記憶を抱える社会では理念の後退と映る懸念が強い。学界や市民団体は「原則の緩みが連鎖する」と警戒し、与党内にも慎重論が残る。言葉を変えるのか、解釈を整えるのか、それとも現行を再確認するのか。選択肢の違いは、国内外へのメッセージ性に直結する。
安保3文書の見直しと政治日程
政府は国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の見直しに着手する構えだ。防衛費の前倒し拡充や運用概念の再設計と歩調を合わせ、年内から審議の骨格づくりが進む見通しである。米国との協力枠組みや迎撃・反撃能力の分担など、横断テーマが並ぶ。
政権は経済政策と安保政策を一体で動かす姿勢を示している。供給網や先端半導体への投資、宇宙・サイバー分野の強化は、抑止の裾野を広げる施策だ。同時に財政負担の見通し、産業界の実装力、地域社会の受け皿といった現実条件が、机上の設計を試す段になる。
非核三原則の扱いは、これらの改定作業と連動して主要論点に浮上する可能性が高い。現時点で確認できる範囲では、政府は原則全体の即時変更を公表していないが、国会答弁の言い回しや与党協議の設計に、運用の見直しをにじませる局面が増えている。
言葉の重みを測る作業は始まったばかりで、足取りは静かだ。
