NTTが「tsuzumi 2」提供開始、自治体や金融・医療の現場に現実解

冷たい秋風が吹き込むオフィスで、静かに公開ボタンが押された。NTTは2025年10月20日、国産LLM「tsuzumi」の第2世代「tsuzumi 2」の提供開始を明らかにした。約300億パラメーター級に拡張しながら、1基のGPUで動作する軽さは継承。機密データを守る前提でAI活用を進めたい自治体や金融・医療の現場に、現実解を差し出す動きと映る。

日本語に強く、業務で使える方向へ

発表文は、あえて「このリリース自体をtsuzumi 2で作成した」と添える自己言及で締められていた。日本語の知識・解析・指示遂行・安全性の各指標で、同サイズ帯では世界トップクラスとする評価結果を示し、実務に直結する読解と生成の底力を前面に出した格好だ。数字だけでなく、使い道まで描くのが今回の特徴である。

tsuzumi 2は業務データを参照して回答を高めるRAGと、用途別にモデルを仕立てるファインチューニングを柱に据える。金融・医療・公共の知識を厚くし、社内の財務ヘルプデスク業務などで評価した結果、問い合わせ対応の精度が安定して実務水準に乗ったとする。単なるテキストおしゃべりから、文書仕事の相棒へと軸足を移した印象が強い。

金融タスクの検証では、限られた追加データでも合格ラインに迫るスコアに到達するグラフが並ぶ。チューニングの手間を抑えながら性能を引き出せる設計は、現場でのPoCを短期に回す鍵になる。過学習を避けつつ業務の型へ寄せる――研究と運用の折り合いをどう付けるかに、国産モデルとしての試行錯誤がにじむ。

1GPUで動くという現実解、データを内に留める設計

規模の拡大と同時に守ったのが「1GPUでの推論」という条件だ。推論時のGPUコスト比較では、超巨大モデルに比べて桁の違う水準に収まる試算が示された。オンプレミスやプライベートクラウドでの運用が前提になれば、電力や機器投資の重さは避けて通れない。軽さと性能の落としどころを30B級に定めた判断が浮かぶ。

東京通信大学は、学内にデータを留める要件を満たしつつ、授業Q&Aの高度化、教材・試験作成、履修・進路相談のパーソナライズに踏み出す。クラウド依存を避けたい教育機関が、セキュアな学内基盤の中で生成AIを常用する道筋が見えた格好だ。学生の素朴な疑問から専門的な照会まで、日々の往復にAIが入り込む光景が想像できる。

企業文書の利活用でも連携が進む。富士フイルムビジネスイノベーションの非構造化データを構造化する技術「REiLI」と組み合わせ、契約書や提案書、図表や画像をまたいだ横断分析をねらうという。機密を外に出さない運用と、社内散在データの整理整頓をセットにするアプローチは、情報統制と生産性の両立を求める現場心理に合致すると映る。

広がる導入先、見えてきた次の一手

NTTは、グループ各社を起点にソリューション化とサービス実装を順次進める方針を掲げる。発表では、11月19日からの研究開発フォーラムで最新ソリューションを展示すると予告した。導入の裾野を広げるには、実例を見せながらの「体験」が効く。現場の要件に合わせたカスタマイズと、運用の勘所を伴走しながら伝える段取りがものを言う。

一方で、ベンチマークの読み解きや評価条件の違いには留意がいる。海外のフラッグシップ級モデルと肩を並べるとする主張は、測定手法やデータの前提によって解像度が変わるからだ。現時点で確認されている範囲では、tsuzumi 2は日本語実務の強みを伸ばしつつ総保有コストを抑える設計で勝負する。導入現場の声が今後の真価を映す。

自治体・金融・医療に広がる期待は、守りの要件と攻めの効果を同時に満たせるかにかかる。データを内にとどめ、既存業務の文脈を理解し、適切に証跡を残しながら回るAI。tsuzumi 2が示す方向は明快だ。公開された一文のとおり、自らが生成した言葉で自らを説明する時代に、国産モデルの地についた選択肢が加わったといえる。