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ワシントンの省庁で、担当者たちが静かに書類をめくっている。その机上にあるのは、半導体大手エヌビディアが開発したAI向け最新GPU「H200」を中国へ輸出してよいかどうかという案件だ。トランプ米政権がこの販売を認めるか検討していることが、2025年11月21日に関係者の証言から明らかになった。
米政権が揺れる半導体規制
関係者によると、米国の輸出管理を担う商務省は、バイデン政権時代に導入された対中AI半導体規制を見直しているという。H200は従来のH100より性能が高いGPU（画像処理装置を起源とする演算用半導体）で、現行ルールでは中国向け出荷が禁じられてきたが、政権内では一部輸出を認可する案がテーブルに載っている。ホワイトハウスは個別案件へのコメントを避けつつ、米国の技術優位と安全保障を守る方針は変わらないと強調している。
こうした議論の背景には、釜山でのトランプ大統領と習近平国家主席の会談を機に、米中の貿易・技術摩擦が一時的に落ち着きを見せていることがあるとみられる。両国は先月、AI半導体など安全保障上敏感な分野でも最低限のルール作りを進めることで合意したと報じられている。一方、ワシントンの対中強硬派は、高性能GPUの輸出が中国軍のAI活用を後押ししかねないとして警戒を強めており、輸出管理は軍民両用技術をどう扱うかという難題を映し出している。
エヌビディアの危機感と中国市場
エヌビディアは今回の見直しそのものについて直接の言及を避けているが、現在の規制のもとでは中国向けに競争力のあるデータセンター用AI半導体を提供できないと訴える。同社はこれまで規制を回避するため性能を落とした「H20」を設計したものの、今年春にはこのH20でさえ輸出に特別な許可が必要となり、四半期ベースで55億ドル規模の売上打撃を見込むと公表している。世界のAI開発を支えてきた企業にとって、巨大市場を主導できないことへの焦りは強い。
一方で、規制の抜け穴を突く違法輸出事件も相次ぎ、米司法省は2025年にNVIDIA製GPUを中国へ密輸しようとした疑いで複数の人物を起訴した。制限が厳しいほど闇取引の利益は膨らむが、規制を緩めれば今度は中国の軍事や監視用途に技術が転用される懸念が増す。経済と安全保障の綱引きのなかで、H200輸出の可否はAI時代のパワーバランスを象徴する試金石のように、静かに重さを増している。
