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秋の夕暮れ、ソウル瑞草の社屋で交わされた固い握手が、半導体とAIの地図を書き換える合図になったように映る。対話型生成AIを展開する米OpenAIと、韓国のサムスン電子、SKハイニックスが、AIインフラ構想「Stargate」に向けて戦略的連携を発表した。OpenAIは月90万枚のDRAMウェハー需要を見込むとし、韓国でのデータセンター整備も視野に入れる。巨額インフラの初動が、供給網と産業政策のせめぎ合いを加速させている。
合意の中身
2025年10月1日、OpenAIはサムスン電子とSKハイニックスとの新たなパートナーシップを公表した。焦点は次世代AIに不可欠な高度メモリーの安定供給と、韓国内を含むデータセンター能力の拡張である。具体的には、DRAMウェハーの月間90万枚という需要目標が示され、モデルの学習・推論を支える足腰をいかに早く増強するかが前面に出たかたちだ。
同日、ソウルではサムスングループ各社とOpenAIの意向書締結式が行われたと報じられた。メモリー半導体の供給に加え、設計・運営・クラウド・海上インフラにまたがる協力を視野に入れるという。握手の場面は、部品単位の取引を超え、グループ横断の連携へ踏み込む意思を象徴していたとみられる。
OpenAIのサム・アルトマン氏は、韓国の人材・インフラ・政府支援を評価し、「世界的AIインフラの中核を担う」との期待を示した。サムスンの李在鎔氏、SKの崔泰源氏も連携の意義を語り、メモリーからデータセンター、エネルギー・ネットワークに至るまで相乗効果を強調した。発表は出発点であり、詳細は今後詰める段階だと受け止められる。
韓国で動き出すデータセンター構想
同日発表では、韓国の科学技術情報通信部との間で、首都圏外でのAIデータセンター整備を検討する覚書を結んだことも示された。地域分散と雇用創出をにらみつつ、電力・用地・冷却などの制約をどう解くかが鍵となる。国家政策と民間投資が交差する地点で、Stargateの具体像が描かれ始めた格好だ。
通信分野ではSKテレコムと、またサムスンC&T、サムスン重工業、サムスンSDSとも追加の容量確保に向けた協議を進める。企業ITの現場にモデルを組み込む運用や、センターの設計・構築・運営に関する知見を束ね、国内の産業エコシステムを押し上げる狙いが透ける。韓国でのデータセンター新設の是非も、政治・経済の争点になりうる。
一部報道では、浮遊式（フローティング）データセンターの共同開発検討も伝えられた。用地制約の緩和や冷却コストの低減、排出削減などの利点が語られる一方、海上インフラの安全性や規制、電力の安定確保など課題も多い。現時点で確認されている範囲では、技術・制度の両面で実現性を検証する段階にあると映る。
需給と競争の地図はどう変わるか
月90万枚のDRAMウェハーという数字は、AIモデルの規模拡大がメモリー中心の需給を一段と引き締めることを示唆する。HBMなどの先端品はもちろん、パッケージングや製造装置、素材まで波及する広がりがある。韓国2社が中核に入ることで、米欧日の設計・クラウド勢との結びつきも強まり、サプライチェーンの再編圧力が高まっていく構図だ。
誰に有利なのか。短期はメモリー価格や設備稼働への期待が先行しやすいが、中期は電力・規制・地政学の制約が重くのしかぶ。韓国でのセンター整備は、送配電や再エネ接続、地域合意形成のハードルを伴う。技術の速度を社会の速度に合わせられるかが、投資の価値を左右する分岐点になるとみられる。
一方で、今回の発表は包括的連携のフレームを示したに過ぎない。実際の調達配分や投資額、建設スケジュール、電源構成などの要件はなお流動的だ。OpenAIは詳細を追って公表するとしており、当面は個別計画の詰めと認可手続きが焦点になる。市場と政策の間で、偶然ではなく必然の選択が問われている。
