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夕方の区役所窓口で、納付相談の列に若い留学生が静かに並ぶ姿があった。厚生労働省と出入国在留管理庁は、国民健康保険料を滞納し、自治体からの納付要請にも応じない外国人を対象に、原則として在留資格の変更や更新を認めない仕組みを導入する方針を固めた。運用開始は2027年6月を見込む。制度の信頼と共生の秩序をどう両立させるかが問われる。
在留手続と保険料、線引きの転換点
今回の方針は、在留の可否判断に公的保険料の履行状況を本格的に組み込む点で転換点となる。対象は、国民健康保険料などを滞納し、督促後も正当な理由なく納付に応じないケースだとみられる。現時点で確認されている範囲では、原則不許可としつつ、個別事情の確認や運用詳細は今後詰める段階にある。
背景には、在留審査を所管する出入国在留管理庁と、保険制度を所管する厚労省の間で情報を連携し、審査の厳格化と透明化を図る狙いがある。情報システムの改修や自治体とのデータ連携の整備が前提となるため、導入までの工程管理が鍵を握ると映る。関係省庁は段階的な検証を経て運用へと進む構えだ。
一部報道によれば、政府は2025年6月に関係閣僚会議で方向性を確認し、必要な省令改正やガイドライン整備を進める。導入時期は2027年6月を目安とする見立てで、留学や家族滞在を含む中長期の在留資格全般に影響が及ぶ可能性がある。審査の一貫性と救済手続の明確化が不可欠だとみられる。
数字が映す現状
制度見直しの下敷きになったのが、厚労省が2025年4月に示した初の集計である。データが整う150市区町村の平均で、外国人世帯の国民健康保険料の納付率は63％にとどまった。日本人を含む全体の納付率が93％だったのに対し、差は30ポイント。納付行動のギャップが鮮明になった。
集計は2024年12月末時点の状況を基にしたもので、自治体の多言語周知や相談体制の整備が進む中でも、納付率の改善が伸び悩む実態が浮かぶ。就学や就労の開始時期と賦課・納期のずれ、住所変更の遅れ、口座振替の未設定など、手続面のつまずきが重なると滞納に陥りやすい構図があるとみられる。
一方で、滞納は所得状況や生活の不安定さの反映でもある。短期雇用やシフト減少で収入が乱高下すれば、保険料負担は重くのしかかる。制度の信頼維持には履行の徹底が欠かせないが、納付相談や分割納付、減免の適正運用を通じ、履行可能性を高める支援の設計も不可欠だと映る。
現場への影響と課題
在留の可否が保険料の履行と直結すれば、現場の緊張は高まる。更新期の直前に未納が判明すれば、在留継続の見通しは一気に不透明になる。大学や雇用主は、在留手続のカレンダーと納期の管理を合わせ、早期の納付確認や証明書類の準備を日常化する必要が出てくるだろう。
上野厚生労働大臣は、秩序ある共生社会の実現に向け、社会保障制度の適正利用を進める必要があると発言した。制度の信頼を守る軸を打ち出しつつ、正当な事情がある人への配慮や、誤登録・誤賦課といった事務起因の不利益を避ける仕組みも求められる。実務の丁寧さが試される局面である。
2027年6月の運用開始に向け、自治体窓口の多言語案内やオンライン手続の拡充、口座振替の初期設定促進など、滞納を未然に防ぐ導線づくりが急がれる。窓口の列はいつも通り静かだが、掲示板の案内に目を留める人は増えている。制度と暮らしの歩調が合うまでには、少し時間がかかるかもしれない。
