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ベルリンの会場に緊張が走ったのは2025年10月25日。フォンデアライエン欧州委員長が、中国によるレアアース輸出規制の拡大を正面から批判し、依存を断つ新計画「RESourceEU（リソースEU）」の検討を明らかにした瞬間だった。共同購入や備蓄、再利用を軸に、欧州産業が短期から長期まで重要原材料の代替調達を確保する青写真がにじむ。供給網の綻びを前に、欧州は次の一手を急いでいると映る。
ベルリンで示した危機感と一線
委員長はベルリンの壇上で、中国の規制強化が磁石を中心とするレアアース供給に波紋を広げていると指摘した。欧州のレアアース磁石は消費の九割超を中国に依存するとの認識を示し、自動車や防衛、発電設備など戦略産業の足元が揺らぎかねないと語った。現時点で確認されている範囲では、欧州は短期的な操業の維持と中長期の自立性確保という二重の課題を同時に背負う構図にある。
発言は応酬の色合いも帯びる。委員長は「短期的には中国側と解決策を見つけることに集中する」としつつ、「必要であればあらゆる手段で対応する用意がある」と強調した。関係筋の説明では、今回のメッセージは過度な激化を避けつつ、欧州の交渉余地を広げる狙いがあるとみられる。会場には緊迫と期待が交錯し、欧州が自ら舵を取ろうとする空気が広がっていた。
背景には中国の輸出管理の拡大がある。中国商務部は2025年10月9日、稀土関連物項および関連技術に対する新たな輸出管制の決定を公表した。これに先立ち同年2月や4月にも戦略鉱物への管理が相次いで強化されており、制度の積み重ねが欧州の調達計画に影を落としている。規制の正当性を主張する中国側に対し、欧州は産業影響の最小化を模索する展開だと映る。
計画の柱—調達先の多様化と循環
委員長が言及した「RESourceEU」は、エネルギー危機時の「REPowerEU」を下敷きに、重要原材料の確保を包括的に進める構想である。具体的には、オーストラリア、カナダ、チリ、グリーンランド、カザフスタン、ウズベキスタン、ウクライナなどとの連携を加速し、調達先の多様化を一気に進める。短距離では中国との実務的な解決を探りつつ、並行して長いサプライチェーンを再設計する二正面の対応が描かれる。
同計画は欧州域内の手当ても重視する。共同購入や備蓄の仕組みを整え、市場の需給ひっ迫時に価格と供給安定を担保する狙いだ。欧州委は競争政策の枠組みの下で、重要原材料分野における企業間協力—たとえば共同購入やオフテイク契約、共同リサイクル—の扱いに関する指針作りを進めており、制度面の後押しも視野に入る。過度な集中を回避しつつ、欧州企業が交渉力を確保する地ならしが進むとみられる。
循環の強化も柱だ。欧州で販売される製品に含まれる重要原材料を回収・再利用し、域内での生産・加工への投資を増やす方針が示された。たとえ鉱量が限られていても、回収と再資源化を積み上げれば需給の揺らぎを緩和できる。自動車の駆動モーターや風力発電の発電機、データセンターの機器まで、レアアース磁石が組み込まれた製品は広範に及ぶ。循環の網を細かく編むほど、産業の耐性は厚みを増すといえる。
揺れる地政学と次の一手
一方で、中国側は輸出管理を「軍民両用物項に対する国際的に通用する措置」と説明している。違法な流出や規制回避を警戒しつつ、民生分野の合理的需要には許可審査で応じる姿勢も示しており、制度目的と合規貿易の両立を強調する。欧州は対話の回路を保ちながら、制度運用の透明性や許可の予見可能性を求める構えだ。交渉の行方は、企業の生産計画と直結する重みを持つ。
委員長は「短期は対話、必要なら手段」と両面の構えを取る一方、G7と歩調を合わせた対応の可能性もにじませた。供給の安全保障は、もはやエネルギーだけでなく素材でも国家戦略の中核に位置づく。欧州は対外関係の舵取りと同時に、域内の鉱業・精錬・リサイクルへの投資促進、許認可の迅速化、人材・環境基準の両立という内政課題にも向き合う必要がある。計画の真価は、こうした総合力をどこまで引き出せるかにかかっている。
足元の市場は不安定さを増し、企業の調達部門は日々の在庫と発注を見直す局面が続く。それでも、調達先の多様化と循環の拡充、そして制度の整備が進めば、突発的な規制や地政学の波にも揺らぎにくい体制が見えてくる。ベルリンで掲げられた「RESourceEU」は、その道筋を物語る最初の合図である。欧州がどの速度で走り切るのか、カギを握るのは政治の決断と産業の実行力だと映る。
