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マイクの前に立った台湾政府の報道官が、用紙をめくる音だけが記者会見場に響いた。読み上げられたのは、中国の習近平国家主席が米中首脳電話会談で語った台湾をめぐる歴史認識を「虚構の物語だ」と退ける声明だった。台湾側は、戦時中や戦後の国際文書はいずれも台湾の最終的な政治的地位を決めていないと強調し、同時に米国との緊密な連携を続けて地域の安定を守る決意を示したのだ。
歴史文書をめぐる攻防と「互いに隷属せず」という主張
発端となったのは、2025年11月24日に行われたドナルド・トランプ米大統領と習近平国家主席の電話会談である。中国側の発表によれば、習氏はこの場で「台湾の中国への回帰は戦後国際秩序の重要な構成要素だ」と述べ、第2次世界大戦での対ファシズム勝利の「成果」を共に守るべきだと米側に訴えた。背景には、高市早苗首相の台湾有事発言に反発した中国が、歴史と国際秩序を持ち出して日本や米国の動きを牽制しようとする思惑があるとみられている。
これに対し台湾政府は25日、戦時中のカイロ宣言やポツダム宣言、戦後のサンフランシスコ平和条約や国連決議はいずれも、台湾の主権や政治的地位を法的に確定していないと指摘した。カイロ宣言は1943年に連合国首脳が日本の領土処理の方針を示した文書、ポツダム宣言は45年に日本の降伏条件を示した宣言、サンフランシスコ平和条約は51年に日本と連合国の戦後処理を定めた条約であり、台湾側は「これらを根拠に中国が台湾主権を主張するのは、歴史の事実をねじ曲げている」と批判する。同時に「中華民国台湾は主権を持つ独立した国家であり、中華人民共和国とは互いに隷属しない」という立場を改めて示し、中国の物語とは異なる現在の台湾海峡の現実を強調した。
米国との協調と揺れる戦後秩序
台湾側は今回の声明で、米中首脳の対話自体は注視しつつも、米国と継続的に意思疎通を図り、地域の平和と安定を守るために協力していると明らかにした。中国がカイロ宣言など戦時文書を「法的根拠」として持ち出し、台湾問題をあたかも自国の内政にとどまるかのように描こうとしていることに対し、台湾は「虚偽の法的論理だ」として各国に警戒を呼びかける。米政府もこれまで、中国の歴史解釈に基づく法的主張を受け入れていないと台湾側は説明しており、法と歴史の解釈をめぐる静かな綱引きが水面下で続いている。
一方で、中国は高市首相の国会答弁などを念頭に、日本が台湾海峡情勢に軍事的に関与する可能性を強く批判し、戦後国際秩序に挑戦していると非難している。日本と中国の間では「一つの中国」や戦後処理に関する認識の違いが改めて浮き彫りとなり、同じカイロ宣言やポツダム宣言を読み解きながらも、結論は大きく食い違う。台湾の声明は、軍事力だけでなく、歴史や国際法の物語をめぐる争いが東アジアの緊張の一部になっていることを示している。静かな会見場で読み上げられた言葉は、海峡を挟んだ向こう側のざわめきを、別の角度から映し出していた。
