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椅子を引く音が静まると、自民党の安全保障調査会のメンバーが分厚い資料に目を落とした。20日に開かれた会合で議題になったのは、国家安全保障戦略など「安保3文書」を予定より早く見直すことと、防衛装備をどこまで海外に移せるようにするかという、政権の根幹に関わるテーマだった。高市早苗首相の下で防衛政策を組み直す作業が、静かに走り出している。
安保3文書の前倒し改定、数字の裏にある思惑
安保3文書は令和4年に策定され、防衛費と関連経費を合わせて国内総生産(GDP)比2%まで引き上げる道筋などを示している。現行計画では令和9年度の達成を見込むが、首相はこれを令和7年度中に成し遂げる考えを打ち出した。自民党は来年4月までに政府への提言をまとめる段取りで、増額幅だけでなく財源のあり方や、中長期の装備計画との整合性も論点になりそうだ。
背景には、中国による軍備増強や、ロシアと北朝鮮の接近など、周辺情勢の変化がある。自民党内の議論では、無人機を前提とした作戦構想や、長射程ミサイルの整備を急ぐ必要性が繰り返し指摘されている。非核三原則の扱い、さらには原子力潜水艦を将来選択肢に入れるかどうかといった、これまでタブー視されてきたテーマを議論のテーブルに載せるべきだという声も出始めている。
自民党と日本維新の会は、年内にも3文書改定に向けた協議体を立ち上げる方向で調整しており、前倒し改定は連立の重要課題として位置づけられている。高市首相は10月の所信表明演説で、抑止力と防衛産業基盤の強化を掲げており、与党協議はその方針を具体的な数値や制度に落とし込む作業ともいえる。来年度予算編成や中期防衛力整備計画にも直結するだけに、調査会での一つ一つの判断が重みを増している。
輸出を縛る「5類型」撤廃へ、連立が後押し
今回の議論で、与党内から特に強い関心が寄せられているのが、防衛装備移転三原則の運用指針にある「5類型」だ。現在、日本が完成品として輸出できる装備は、救難、輸送、警戒、監視、掃海という非戦闘用途に限られており、共同開発品などを除けば事実上の枠はかなり狭い。防衛産業からは、これが長期的な受注の壁となり技術投資をためらわせているとの声が上がり、国会審議でも「5類型をやめ、輸出先や用途を別の形で厳格に絞るべきだ」との問題提起が繰り返されてきた。
自民党は、この5類型の撤廃こそが装備移転規制緩和の「本丸」だと位置づける。一方で、これまでの連立相手だった公明党は慎重姿勢を崩さず、協議は何度も棚上げされてきた経緯がある。流れを変えたのが日本維新の会との連立合意で、合意文書には2026年の通常国会で5類型を廃止する方針が明記された。防衛大臣も記者会見で、防衛装備移転は厳しくなった安全保障環境に対応するための重要な手段だと述べ、連立合意を踏まえて検討を進める考えを示している。
もっとも、輸出の門戸を広げれば、それだけ説明責任も重くなる。与党内でも、目的外使用をどう防ぐか、第三国への再移転をどう監視するかといった歯止めの設計は不可欠だとの認識が共有されつつある。実際には、輸出審査の手続きや国会への定期報告、契約後のエンドユーズ(最終用途)確認の仕組みをどこまで制度化するかが焦点になるだろう。5類型撤廃は、防衛産業の裾野拡大と同時に、民主的な統制をどう具体化するかを問う作業でもある。
会合の部屋を出る議員たちの足取りは静かだが、その議論は数年先の予算規模や装備体系だけでなく、日本がどの国とどのような安全保障関係を結ぶのかという長い時間軸に影を落としている。
