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秋の薄曇りが残る国会内の廊下で、静かに足音が交差した。自民党の高市総裁が2025年10月9日、菅義偉元首相、岸田文雄前首相と相次いで会談した。公明党との連立継続をめぐる協議が難航する中、首相経験者の知見を幅広く聴取した動きと映る。与党の骨格をどう保ち直すか。次の一手を探るための往復とみられる。
首相経験者を訪ねた意味
9日の会談は、国会内で短時間ながら間を置かずに続けて行われたとみられる。連立協議が足踏みする局面で、政権運営の経験を持つ2人に耳を傾けた構図が浮かぶ。現時点で確認されている範囲では具体的な合意には至っていないが、意見交換の相手に首相経験者を選んだ事実自体が、局面打開への焦りと慎重さの同居を物語る。
菅氏は公明の支持母体である創価学会と太いパイプを持つことで知られ、実務肌の調整力にも定評がある。高市氏が協力を求め、地ならしの可否を探った可能性があるとみられる。一方、岸田氏は長期にわたり自公連立を担った前任者で、政策合意の文言や配席の重みを熟知する。両氏から、妥協点の作り方や党内の納得を得る手順について実際的な助言を受けたとの見方が広がっている。
2人の前首相の間でも連立の意味づけは微妙に異なる。経済対策や少子化対応の加速を優先すべきだとする流れと、政治改革や安全保障で足場を固めるべきだとの主張が併走する。高市氏は双方の論点を束ねる必要がある。会談の場に選ばれた国会内の一室には、与党の重みと責任を再確認する空気が漂ったとみられる。
連立協議の焦点と溝
協議の焦点は複数ある。選挙協力の枠組み、政策合意の文言、内閣や党人事の扱いだ。公明側は子育て支援や生活減税の実効性に強くこだわる一方、自民側には防衛力整備や成長志向の経済運営を後退させたくない思いが根強い。言葉の選び方ひとつで支持層の受け止めが変わるため、文言調整が難所となっている構図だと映る。
選挙区の調整も神経戦だ。都市部の接戦区では一つの合意が複数区に波及する。過去の東京での候補者一本化をめぐる齟齬が想起され、双方の「越えてはならない線」が改めて鮮明になったとの指摘がある。現時点で確認されている範囲では、党本部間の実務者協議は続いているが、落とし所の輪郭は定まらない。合意が遅れれば、予算編成や国会運営の工程にも連鎖する恐れがある。
ただ、連立の基盤は30年近い歴史の中で危機を幾度もくぐり抜けてきた。両党の地方組織には現場での協調を望む声が根強く、現実的な着地を促す圧力も働いている。いま必要なのは、支持層への丁寧な説明と、合意の利益と不利益を見える形で示すことだろう。高市氏の言葉の選び方、説明の順番が局面の明暗を分けるとみられる。
次の一手、試される指揮
想定されるシナリオはいくつかある。第一に、政策合意の文言を磨き上げ、配席を最小限にとどめて枠組みを維持する道。第二に、当面は政策協議の合意にとどめ、形式上の連立合意を先送りする道。第三に、少数与党で国会を乗り切る暫定策や、信を問う選択肢だ。いずれもリスクは大きく、説明責任と実行可能性の両立が問われる。
9日の会談は、こうした岐路での意見集約の前段作業とみられる。首相経験者の助言は、短期的な情勢判断に加え、支持層の心理や官邸・与党内の意思決定の癖まで踏まえた具体に及ぶことが多い。高市氏は複数の助言を束ね、誰が聞いても筋が通る説明を用意できるか。週明けに向けて非公式接触が重ねられ、合意の骨格を描けるかどうかが注目される。
政治は言葉で動くが、言葉だけでは進まない。交渉の節目ごとに、相手の譲れない点と自らの最優先事項を言語化し、同時に現場の実務に落とす必要がある。高市氏の指揮は、その二つを接続できるかどうかで評価が決まる。与党の足並みを整えられるのか、それとも新たな力学に舵を切るのか。分岐点は、静かな会談の背後でじわりと近づいている。
