トランプ米大統領、アジア歴訪本格化　圧力と対話で供給網再設計へ

2025.10.25

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薄曇りのターミナルに政府専用機の影が伸び、乗降口では随行スタッフが慌ただしく動いている。トランプ米大統領のアジア歴訪が本格化し、経済協定や重要鉱物での合意取り付けを狙う局面に入った。供給網の再設計を掲げつつ、中国との駆け引きを見据えた圧力と対話の両輪が回り始めたと映る。

アジア歴訪の狙いと交渉の舞台

米通商代表部は、通商代表グリアー氏が大統領に同行し、マレーシア、日本、韓国を巡る日程に入ると発表した。マレーシアでは中国側のカウンターパートと会談し、日本では大統領の国賓訪問に同席、韓国ではAPEC関連会合に参加するとしている。地域の要所を結ぶ動線が示されたことで、供給網や投資に関わる実務交渉が前段で走り、首脳レベルで一気に政治判断を引き出す設計が浮かぶ。

現時点で確認されている範囲では、行程の詳細や個別合意の項目は限られている。ただ、マレーシアでのASEAN関連会合や韓国でのAPECといった多国間の舞台は、資源・通商・安全保障を束ねる議題が集約されやすい。各国の思惑が交錯する場に、米政権はサプライチェーンの再構築と投資呼び込みのメッセージを重ね、交渉の地合いを整えようとしているとみられる。

一方で、米中首脳の直接会談が直ちに決まっているわけではない。だが、同行する通商閣僚が中国側と実務接触を持つとの発表は、対話の経路が確保されていることを示す。関税や輸出規制を巡る綱引きが長期化する中、現地での非公開折衝と各国首脳外交が、互いのレッドラインと妥協点を探る場になる可能性が高い。

豪州との重要鉱物枠組みが映す供給網の再設計

歴訪の地ならしは、すでに資源の要で動き出している。2025年10月21日、米豪は重要鉱物とレアアースの供給網を強化する新たな枠組みに署名した。豪首相府は、双方が少なくとも10億ドルずつ拠出し、今後6か月で85億ドル規模の優先案件パイプラインを動かす方針を公表した。鉱種の特定から精錬・分離、加工まで、投資と政策ツールを連動させる構図だ。

米政府資料では、向こう半年で両国合わせて30億ドル超の投資意向が整理され、米輸出入銀行による22億ドルの融資意向が示されたとされる。一方で豪側は「少なくとも」10億ドルずつと説明しており、表現や集計の切り方には差が残る。発表のトーンに揺れはあるが、官民資金を束ねて精錬やギャリウムなど戦略素材の生産能力を底上げする方向性は一致していると映る。

この枠組みは、アジア歴訪での交渉材料としても重みを増す。中国が鉱物の輸出管理を強める局面で、米豪連携が示す「代替ルート」は説得力を持つ。資源国や加工拠点を抱えるASEAN、日本、韓国との議論でも、鉱種の多様化や環境・労働基準の共通化、資金の目利きといった実務論へ議題を落とし込む余地が広がっている。

対中圧力のもう一手、通商調査が示すもの

交渉の裏側では、圧力のレバーも引かれている。2025年10月25日、米通商代表部は中国による「第一段階合意」（フェーズワン）の履行状況を改めて精査する調査の開始を公表した。知財や農産品、金融サービスに及ぶ約束の不履行が米国商業に与える負担を評価し、必要な措置を検討するという流れだ。公募手続きと公聴会を通じ、証拠と論点を積み上げていく構えがうかがえる。

この動きは、歴訪先での交渉と連動して相手の「コスト計算」に影響を与える。対話の回路を開きつつ、法的プロセスで選択肢を拡張することで、相手の譲歩を引き出す古典的な手法である。関税の具体像や制裁の中身は現時点で固まっていないが、調達先の分散と国内投資の呼び水を同時に打ち出す姿勢は、産業界にとっても次の資本配分を考える指標になりつつある。

空港の滑走路を離れる機体の窓の向こうに、交渉の地図が広がっている。資源の流れを誰がどう握るのか。アジアの会議室と二国間の執務室を往復する数日間が、供給網の新しい輪郭を描き出すかが問われる。具体的な合意はこれからだが、準備された道具立てからは、成果を積み上げる意思がにじむ。