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ホワイトハウスの言葉とニューデリーの沈黙が交錯した。2025年10月15日、トランプ米大統領は、モディ印首相がロシア産原油の購入停止を約束したと明言した。だが翌16日、インド外務省はそのような電話会談を「把握していない」と述べ、合意の実在に疑問が生じた。対露圧力が強まるなか、原油という生々しい流れが外交の綻びを映し出している。
揺れる「合意」発言とインド側の火消し
発端は15日、ワシントンでの発言である。トランプ大統領は、モディ首相からインドが短期間でロシア産原油の購入をやめると保証を得たと語った。戦争終結へ向けてロシアの収入源を絞る狙いを強調し、経済的圧力を一段と高める構えを示した。発言は市場にも響き、インドの姿勢転換が現実味を帯びたかに見えた。
しかし16日、ニューデリーの空気は違っていた。インド外務省の報道官は、両首脳が15日に会談した事実を「把握していない」と述べ、火消しに回った。外務省は以前から、不安定な国際エネルギー市場のなかで自国の消費者を守ることが輸入政策の最優先だと説明してきた経緯がある。合意の実在は、現時点で確認が割れていると映る。
背景には、米国の圧力強化がある。米政権は夏以降、ロシアの戦費を断つ名目で対露措置を拡充し、インドがロシア原油を直接・間接に購入していると問題視してきた。8月には追加関税を打ち出し、対露連携の見直しを迫っている。首脳間の「約束」をめぐる揺らぎは、その強硬策の延長線上にあるとみられる。
石油の流れが映す力学
ロシアの全面侵攻が始まった2022年2月以降、インドは割安な原油の受け皿として存在感を増してきた。欧米やその支援国がロシア産の受け入れを絞る一方で、インドの調達は国内需要と価格安定を優先する選択だった。製油所が多様な原油に対応できる現実も後押しし、交易は粘り強く続いてきたといえる。
この流れは、単なる価格の話にとどまらない。インドの購買は海上輸送や保険、仲介を巻き込み、世界のトレードルートに新たな重心を生んだ。米欧の価格上限や制裁の網は広がってきたが、抜け道をふさぐには新興国の同調が要る。だからこそ、インドの一挙手一投足が相場と外交の両面で重みを持つ構図になっている。
一方で、インドにとっても代替の確保は容易ではない。中東やアフリカの供給は地政学リスクと隣り合わせで、精製コストや輸送費も無視できない。急転直下の輸入停止は国内の価格やインフレに跳ね返る可能性が高く、政策当局は慎重な足取りを崩しにくい。双方の理屈が正面からぶつかる点に、今回の摩擦の根がある。
連鎖する制裁と交渉の座標軸
欧州でも圧力は強まっている。英国政府は10月15日に対露制裁を拡大し、ロシアの石油収入を直接的に狙い撃ちする対象指定を公表した。対象にはロシア大手に加え、第三国の関係企業も含められた。制裁の包囲網は供給網に及び、精製や輸送の結節点へと広がっている。原油の行き先を狭める狙いが滲む。
米国の追加関税方針や英国の制裁拡充は、インドに選択を迫るシグナルでもある。合意の有無が曖昧なままでは市場の不確実性は解けず、当事者の説明責任が一段と重くなる。インド側は主権的なエネルギー安全保障を強調し、米欧は制裁の実効性を訴える。各国の国内事情が交渉の座標軸を左右している状況だ。
一部報道では、米露首脳の今後の接触や第三国での会談観測も流れたが、公式記録の提示は限られている。現時点で確認されている範囲では、鍵を握るのはインドの輸入方針と、その変更に伴う代替調達の設計図である。政治の言葉と石油の物理がどこで折り合うのか、秋の相場はその答えを待っている。
