トランプ氏が“オートペン恩赦は無効”と宣言　対象者に生活不安広がる

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2025.12.03

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米国のトランプ大統領は2日、前任のバイデン氏がオートペンで署名したとされる恩赦などの文書は「無効だ」とSNSで宣言した。対象とされたのは、在任中に出された恩赦や減刑を含む幅広い公式文書だ。突然の宣言は、恩赦で前科が消えた人や家族に、生活が再び揺らぐのではないかという不安を投げかけている。こうした一方的な宣言は、実際に人々の暮らしをどこまで変えうるのか。

突然の「無効宣言」が生む不安と現実とのギャップ

宣言の文面は一見抽象的だが、矛先の先には、バイデン政権下で恩赦や減刑を受けた人々とその家族がいる。重い前科が帳消しになったことで職を得たり、住宅ローンを組めた人も多いだけに、「本当にやり直せるのか」という不安が再燃しかねない。政治的メッセージとしての色彩が濃いとしても、対象とされた側には日々の契約や人間関係という現実がある。

もっとも、ロイターやアルジャジーラの報道によれば、憲法学者らは一様に「現職大統領が前任者の恩赦を取り消す権限はない」と指摘する。オートペンで署名されたことを理由に効力を失うわけでもなく、実際にどの恩赦が機械署名だったのかを示す公的な記録も現時点では確認されていない。制度の仕組みと、宣言が与える心理的な衝撃との間には、大きなギャップが横たわっている。

それでも、保護観察中の人や企業の人事担当者、地域社会の支援団体にとっては、書類の扱いをどうすべきか判断に迷う局面だ。専門家が「法的には無視してよい」と説明しても、政治対立の象徴となった以上、今後の採用や融資の場面で「いつか覆るかもしれない」という疑念だけが独り歩きする恐れがある。法の安定性に対する漠然とした不信が、静かに染み出し始めている。

オートペンと恩赦制度　長年認められてきた仕組み

今回、焦点となったオートペンは、大統領の署名を機械で精巧に再現する装置である。AP通信などによれば、祝電やクリスマスカードといった大量の書簡だけでなく、一部の法案や宣言文にも、共和・民主両党の歴代政権が活用してきた。ホワイトハウスの日常業務を支える、いわば「影の道具」が、突然政治闘争のど真ん中に引きずり出された形だ。

合憲性を巡る議論は以前からあり、オバマ政権期には議会共和党から批判も出た。しかし司法省の法務局が2005年に示した見解では、大統領本人が内容を承認し、部下に署名させる形であれば、オートペンによる署名も憲法が求める「署名」に当たると解釈されている。つまり、「誰がペンを握ったか」よりも、「最終判断を下したのが誰か」が重視されてきた。

今回も、スタンフォード大やミシガン州立大などの研究者が各紙の取材に対し、恩赦は一度成立すれば原則として最終的なもので、後任大統領がまとめて取り消す仕組みは憲法上想定されていないと説明している。仮に個別の恩赦を争うとしても、「元大統領が内容を承認していなかった」と裁判所に証明する必要があり、ハードルは極めて高い。トランプ氏の宣言は、法の世界というより世論の領域で効力を狙った動きと見るべきだろう。

政治的攻防が司法と当事者にもたらすこれからのリスク

では、なぜトランプ氏は法的根拠が乏しいと知りつつ、ここまで踏み込んだ宣言を行ったのか。ワシントン・ポストやAP通信が指摘するように、同氏はかねてバイデン氏の認知能力や統治能力に疑問を投げかけてきた。オートペンは「自分で判断していない」という物語を補強する、分かりやすい素材になっている。恩赦の当否よりも、前政権の正統性そのものを攻撃する狙いが透ける。

ただ、宣言自体に法的効力が乏しいとしても、全く影響がないとは言い切れない。政権側が個々のケースで恩赦の正当性を争う材料としてオートペンを持ち出せば、受刑者やその家族は長期の訴訟リスクにさらされる。今回のメッセージは、その可能性をほのめかす政治的シグナルとも読める。裁判所や議会がどこまでブレーキ役を果たせるかも、今後の焦点となる。

恩赦は本来、最終的な救済として人の人生をやり直す機会を保障する制度だ。その根幹を、政権交代後の政治的メッセージの素材として揺さぶることが常態化すれば、裁かれた人だけでなく、司法全体への信頼も目減りしていく。今回の騒動が、法的な結論以上に「誰にどこまで不安と費用を負わせるのか」を問う出来事として記憶されるのかどうかが、これから静かに見極められていく。