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米国の関税政策を批判するカナダ・オンタリオ州のテレビ広告に対し、ドナルド・トランプ米大統領が怒りを示し、通商交渉の打ち切りと追加関税を示唆した。2025年10月25日には、カナダへの関税を10％引き上げる意向に言及したとの報道も出た。これに対し、広告のスポンサーであるダグ・フォード州首相は10月27日、「狙いは達成した」と強調し、対立は北米の世論を巻き込む様相を帯びている。
広告が火をつけた通商の火種
発端となったのは、ロナルド・レーガン元大統領の「関税はすべてのアメリカ人を傷つける」との趣旨を引用したオンタリオ州のスポット広告である。広告は米主要市場でも放映され、トランプ氏はこれを「詐欺的」と強く批判した。レーガン財団側も無断使用の可能性に言及し対応を検討していると伝えられ、政治広告の手法に法的・倫理的な論点が浮かぶ。議論は政策論争の域を超え、歴代大統領の言葉の扱いにまで広がっている。
一方で、広告が提示したメッセージは単純で強い。関税は国内の雇用や家計をも直撃するという古典的な主張である。フォード氏は州議会で、広告は「北米史上最も成功した」と胸を張り、「10億回再生」に達したと説明したと報じられる。数字の正確性は検証が必要だが、少なくとも話題化という点では狙いどおりだったと映る。広告の波紋は国境を越え、通商交渉の空気を一変させた。
トランプ氏の強硬姿勢と「10％引き上げ」の行方
トランプ氏は2025年10月25日、ソーシャルメディア上の発信を通じて、カナダとの通商交渉を即時打ち切ると表明した。背景には前述の広告への反発があるとみられる。同氏は関税の10％引き上げに言及したとの報道もあるが、現時点で適用開始時期や対象品目、法的根拠は公的文書で確認されていない。米政府の通告や大統領布告が出ないかどうか、一次情報の開示が待たれる局面である。
加えて、北米の貿易枠組みであるUSMCAの下では多くの品目が無税で取引されている一方、国家安全保障や救済措置に基づく個別関税が上乗せされる余地は残る。今回の「10％」が包括的な一律上げなのか、特定分野に限るのかで実体経済への影響は大きく異なる。企業は在庫や調達の見直しを迫られ、為替・物流への波及も避けにくい。市場は「言葉」から「文書」へと、確定情報の出方を注視している。
オンタリオの読みとフォード氏の計算
フォード氏は10月27日、州議会で広告の妥当性を重ねて主張し、「私たちは目標を達成した」と語ったと伝えられる。狙いは米国内で関税の是非を再び争点化し、世論と政権内の政策決定に揺さぶりをかけることにあったとみられる。フォード氏は「トランプ大統領の背後でじっとしてはいない」とまで述べ、州政府が独自に対米世論へ働きかける構図を作った。州レベルのメッセージが連邦外交の地平に影を落としている。
もっとも、州の広告が通商交渉全体を左右することには慎重論も根強い。カナダの対米通商は連邦政府の専権であり、州の動きが相手国の反発を招けば、結果的にカナダ企業や労働者に跳ね返るとの見立てもある。フォード氏は広告の事前共有についても言及したとされるが、関係者の認識にはズレが残る。政治的得点と経済的コスト、そのバランスをどう取るかが問われているといえる。
カナダ政府の対応と先行き
カナダのマーク・カーニー首相は2025年3月15日に就任し、通商をめぐる緊張が高まる中で舵取りを担っている。就任以降、米国の追加関税方針に対しては経済的な不利益を指摘しつつ、国益を守る構えを明確にしてきたと映る。今回の広告騒動で交渉の機運は冷えたが、産業界の混乱を抑えるためにも、双方が実務レベルの接点を探る余地は残る。合意への最後の一歩は、国内政治の計算を超えられるかにかかっている。
両首脳は今週、アジアでの国際会議に出席しているが、現時点で正式な首脳会談の予定は確認できない。トランプ氏は「長い間会うことはない」と述べたとの報道もあるが、情勢は流動的である。カーニー氏は交渉継続の可能性を探っていたとされ、広告の放映が局面を変えたとの見方が出ている。言葉の応酬を超え、一次資料に裏付けられた政策判断が示されるかが次の焦点である。
