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エンジンの唸りが残る機内で、トランプ米大統領が声を強めた。2025年11月2日、ナイジェリアでキリスト教徒が多数殺害されているとして、米軍の地上部隊派遣や空爆の可能性に言及した。1日にも軍事行動を警告しており、10月31日には米政権がナイジェリアを宗教の自由を侵害する「特に懸念のある国」に再指定した。発言は両国関係に緊張を走らせている。
大統領専用機での発言が投げかけた波紋
2025年11月2日、帰途の大統領専用機内で記者団から問われたトランプ氏は、ナイジェリア情勢への対応として地上部隊派遣や空爆を想定するのかと聞かれ、「可能性はある。ほかにも選択肢がある」と応じたと伝えられている。現状を「容認しない」と強い言葉で突き放した姿が浮かぶ。
こうした強硬姿勢は前日の11月1日に示した警告の延長線上にあるとみられる。トランプ氏は、ナイジェリアでキリスト教徒が記録的規模で殺害されているとし、現地政府が事態を改めないなら米国として踏み込む可能性を示唆した。発言は短くとも、含意は重いと映る。
一方で、現時点で具体的な作戦命令や開始時期は確認されていない。外交・軍事のオプションを並行して検討する段階にあるとみられ、関係国との調整や議会との連携、法的根拠の整理など越えるべき関門は多い。発言の熱量と政策の実装のあいだには距離がある。
ナイジェリア政府の反論と現場の複雑さ
トランプ氏の主張に対し、ナイジェリア政府は自国を宗教的不寛容の国家とみなす評価は現実を反映していないと反論している。大統領府や与党関係者は、宗教間の共存を掲げ、治安対策の継続を強調した。両国の言葉が海をまたいでぶつかり合う構図が広がっている。
現地で発生する暴力は、イスラム過激派ボコ・ハラムやISWAPによる襲撃、牧畜民と農耕民の土地・資源をめぐる衝突、武装集団の誘拐・強盗など多層的だ。被害者はキリスト教徒に限られず、北部を中心に多くのイスラム教徒も巻き込まれているとの指摘が根強い。
宗教を軸に単純化すれば見誤る危険がある一方、礼拝施設や地域共同体が狙われる事例が重なれば宗教の自由の問題は避けて通れない。治安対策の遅れ、地方統治の脆弱性、貧困や気候変動に伴う移動の増加が火種を広げ、暴力の回廊が伸びる現実が横たわる。
再指定の意味と米国の選択肢
米政権は2025年10月31日、ナイジェリアを宗教の自由を侵害する「特に懸念のある国」に再指定した。これは1998年の法律に基づく措置で、直ちに制裁が自動発動するわけではないが、非人道分野を除く支援停止などの圧力手段を可能にする。外交カードの並びが変わったといえる。
ナイジェリアは2020年にも同指定を受け、その後に解除された経緯がある。一部報道によれば、指定や解除の往来は、現地の治安推移だけでなく米政権の対アフリカ政策や人権外交の重心とも連動してきた。再指定は、米国が宗教の自由を軸に圧力を強めるシグナルと映る。
軍事行動に踏み込むか、制裁や支援見直しで圧力をかけるか、あるいは地域枠組みや国連を通じ調停と治安支援を増やすか。米国の選択は、宗教の自由の擁護と地域安定の両立をどう図るのかという難題を突きつける。力の行使は人命を守るのか、憎悪を再生産するのかが問われている。
