英首相が中国を「真の脅威」と指摘　在英中国大使館が強く反発

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2025.12.03

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英国のキア・スターマー首相がロンドンでの晩さん会で中国を「真の国家安全保障上の脅威」と名指しし、人権や香港問題を追及し続けると強調した。これに対し在英中国大使館は2日、「根拠のない非難」であり内政干渉だと強く反発している。安全保障上の不信が募る一方で、中国は英国にとって主要な経済相手でもある。この矛盾をどう管理するのかが、いま問われている。

ロンドンで高まる安全保障と日常への不安

スターマー氏が対中警戒を訴えた場は、ロンドン金融街を象徴する「ロンドン市長主催晩さん会」だった。歴代首相が外交方針を語ってきた舞台で、中国を「真の脅威」と表現し、香港での自由の制限を含む人権問題を今後も直接提起すると宣言したのである。中国側は即座に反応し、大使館声明で「中国の発展はいかなる国にも脅威をもたらさない」と主張し、英国には香港や主権問題に発言する資格はないと改めて突き放した。

こうした強い言葉の背景には、英国内で広がるスパイ活動への警戒がある。11月には情報機関MI5が、ヘッドハンターを装った中国側の工作員がオンラインで国会議員らを標的にしていると異例の「スパイ警報」を出した。中国のためにスパイ行為をしたとされる2人の訴追は証拠不十分で取り下げられたものの、議員やスタッフの間では、自分たちのやりとりが常に国外勢力に狙われているのではないかとの不安が残っている。

ロンドン東部に計画されている大規模な新中国大使館も、そうした不安を象徴する存在だ。広大な旧軍施設跡地に「メガ大使館」を建設する構想に対し、周辺住民や専門家からは、情報収集や監視活動の拠点になるのではないかとの懸念が海外メディアで繰り返し報じられている。英国政府は12月10日までに建設を認めるか判断する予定で、静かな住宅街の日常を守りつつ、どこまで中国との外交関係を進めるのかという難しい判断を迫られている。

「真剣な関与」と経済依存のはざまで

一方で、スターマー政権は対立一辺倒ではない。2024年11月には中国の習近平国家主席と会談し、2018年以来途絶えていた首脳レベルの対話を再開させた。政府は、貿易や気候変動、AIなど地球規模課題では中国と協力しつつ、安全保障上の脅威には治安・情報機関にさらなる権限と予算を与えて備える「協力と抑止の両立」を掲げている。

その背景には、経済面での深い相互依存がある。中国は香港を含めれば英国にとって3番目の貿易相手国であり、電気自動車や再生可能エネルギーに不可欠なレアアースなど重要鉱物の供給でも大きな存在感を持つと指摘されている。豪ABC放送などは、ロンドンの新大使館を巡る判断が、老朽化した在北京英国大使館の改修計画や今後の経済関係にも影響しかねないと報じており、外交施設の整備そのものが双方の交渉材料となっている。

英議会では、こうした現実を踏まえつつ対中認識をどう表現するかを巡って議論が続いてきた。これまでの安全保障戦略では中国を「挑戦」や「体系的な競合相手」と位置づけるにとどめていたが、議事録を見ると情報機関トップや政治家の発言には近年「脅威」という言葉が頻繁に登場する。それでも政府は、スターマー首相の来年1月の訪中計画が報じられるなど、対話の扉は開けておく姿勢を崩していない。

安全保障と相互依存をどう折り合うか

安全保障上の懸念を抱えつつ経済関係を維持するというジレンマは、英国だけのものではない。欧州や日本を含む多くの民主主義国が、サプライチェーンから一気に中国を切り離す「デカップリング」ではなく、リスクを減らす「デリスキング」を掲げ、投資審査や先端技術の輸出規制を強めながら、気候変動対策や観光などの分野では中国との往来を続けている。各国が模索しているのは、対話の窓を閉ざさずに安全保障上の弱点を減らすという難しいバランスだ。

そのなかで香港は、価値観の対立が最も表面化しやすい焦点であり続けている。英国は中英共同声明を根拠に、香港での自由の制限に懸念を示し続けているが、中国側は在英大使館の声明で、香港は中国の内政であり英国に口出しする権利はないと主張した。英国に移り住んだ香港出身者にとって、こうした応酬は自らの将来や家族の安全に直結する問題でもあり、ロンドンで交わされる抽象的な「脅威」論争は、足元の生活感覚とも重なっている。

スターマー氏の強い言葉と中国側の反発は、英中関係の緊張を改めて浮き彫りにした。ただ、気候危機から核拡散まで、両国が協調しなければ解決が難しい課題も多い。今後の焦点は、英国が国内の不安に応えるだけの防諜体制と外交上の「一線」を示しつつ、中国との対話や経済協力のチャンネルをどこまで維持できるかという、長期的なバランスの取り方に移りつつある。

ロンドンで高まる安全保障と日常への不安

「真剣な関与」と経済依存のはざまで

安全保障と相互依存をどう折り合うか

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