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冷たい雨のロンドンで聞こえた一言が、欧州の空気をわずかに変えた。20日、イギリスのジョン・ヒーリー国防相が、トランプ米大統領とプーチン露大統領がウクライナ停戦で合意すれば「数週間以内に」欧州部隊を派遣する用意があると語ったとされる。ブダペストでの米露首脳会談準備が進む中、戦争の行方と欧州の安全保障の線引きが現実味を帯びている。
ロンドンで示した「派遣の用意」
年次の防衛講演の壇上で、ヒーリー国防相は「トランプ氏が和平を仲介できるなら、その和平を確保するため支援する用意がある」と語ったとされる。前提はあくまで停戦の合意であり、ウクライナ人が「何を、どのように交渉するかを決めるべきだ」との一線も示したという。発言が伝わるや、会場の空気は張りつめ、欧州の関与の在り方をめぐる議論が一段と熱を帯びたと映る。
国防相は、停戦成立に備えた多国間の準備作業に触れ、国境管理や停戦監視に関する詳細な計画策定が進んでいると説明したとされる。派遣の規模や任務の範囲、装備や財政措置については現時点で公式資料の公開は確認されていないが、国内の部隊準備や訓練、補給線の点検まで踏み込んだ実務が動いている情景が浮かぶ。数週間という時間感覚が語られた背景には、現場で積み上がった手順書がすでに並んでいるからだとみられる。
ブダペストをめぐる駆け引き
16日の電撃的な電話協議で、トランプ氏とプーチン氏はハンガリー・ブダペストで直接会うことで合意した。20日にはクレムリンの報道官が、開催地の選定はオルバン首相が両首脳と良好な関係を持つためだと説明し、会談準備は始まったばかりだと述べた。目的はウクライナ情勢の打開と米露関係の改善にあるとしつつ、交渉の具体像は明らかにしていない。
この「ブダペスト会談」は、戦場の停滞と相まって欧州各国の警戒心と期待を同時に呼び起こしている。欧州連合内では、ロシア大統領を域内で受け入れることへの不快感も表明される一方、前進の糸口をつかみたいという現実的な計算も見え隠れする。ヒーリー氏の「派遣の用意」は、会談の力学を後押しするメッセージとして受け止められ、停戦監視や境界線の安定化に欧州が直接関与する道を示唆したと映る。
ワシントンのすれ違い
17日に行われたトランプ氏とゼレンスキー大統領の会談は、結果に対する見方が交錯した。ゼレンスキー氏は面会を「前向き」と評したが、求めていた長距離巡航ミサイル「トマホーク」の供与は得られなかった。トランプ氏は20日、ウクライナの勝利可能性に懐疑的な見方を示し、前線での「凍結」に言及する姿勢へ揺り戻しが生じている。
ゼレンスキー氏は、ブダペストでの首脳会談に自らも関わる用意があるとしつつ、正当で持続的な和平の条件はウクライナ側が決めるべきだとの立場を繰り返した。米政権が長射程兵器の供与に慎重な間、ウクライナは防空の強化や同盟国からの装備調達の加速に活路を求める。ヒーリー氏の発言が示す「欧州の現地関与」は、こうした軍事的・外交的空白を埋める選択肢として浮上している。
欧州が備える次の一手
講演では、国内の軍事施設を脅かす無人機に対し、英軍や国防省の警務職員が撃墜を含む「キネティック・オプション」を行使できる新たな権限にも言及があったとされる。昨年来、欧米の基地周辺で正体不明の無人機が相次ぎ、重要インフラの警備は喫緊の課題になっている。適用範囲は軍事施設に限るとの説明だが、将来的に空港など民間施設へ拡大する可能性にも触れ、国内安全保障と戦地の安定化を同時に見据える構図がにじむ。
停戦が実現した場合に欧州部隊が担うのは、境界線の監視、地雷除去の安全確保、重要インフラの防護といった地味だが欠かせない任務になる。現時点で拠出額や部隊規模の詳細は確定情報が限られるが、英政府は派遣準備に資金を充てているとされる。戦端の行方を他人任せにしないという意思と、ウクライナの主体性を尊重する姿勢――その間で揺れる欧州の現実が広がっている。
