ウクライナが黒海で原油タンカー攻撃　「影の船団」に一撃の衝撃

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2025.11.30

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29日、ウクライナ保安局は、前日28日にウクライナ軍がトルコ沿岸の黒海を航行していたロシア関連の原油タンカー2隻を国産の水上ドローンで攻撃し、1隻を航行不能にしたと公表した。標的となったのは、欧米の制裁を避けて露産原油を運ぶ「影の船団」に属するとされる船で、乗組員はトルコ当局の救助を受けている。黒海の要衝で起きたこの一撃は、戦場から離れた海上輸送の安全と、対ロシア制裁の行方に新たな問いを投げかけている。

黒海の航路で起きたこと　乗組員と周辺航行への重い現実

攻撃を受けたのは、いずれもロシアの輸出拠点ノボロシスクへ向かっていたとされる「カイロス」と「ヴィラート」という大型タンカーだ。両船はトルコ北西部コジャエリ県沖など、トルコ沿岸から数十カイリ離れた黒海上を別々に航行していた際に相次いで爆発と火災に見舞われ、一方は大規模な炎上で自力航行ができない状態になったと報じられている。

トルコ当局によると、最初の船からの火災通報からおよそ1時間後、別のタンカーからも「攻撃を受けた」との連絡が入り、沿岸警備隊や救助船が相次いで出動した。乗組員は全員避難し、大きな人的被害は確認されていない。一方で、炎上する巨大タンカーの映像は、黒海を行き交う他国船舶にとっても現実のリスクを突きつけるものとなった。

トルコの運輸・インフラ相は、地元テレビで「爆発は外部要因による可能性が高い」と述べ、機雷やミサイル、ドローンを含む攻撃の線を示唆した。事件がトルコの排他的経済水域内で起きたとされることから、同国政府は航行安全と経済活動への影響に懸念を示している。黒海沿岸国としてボスポラス海峡の交通を管理する立場にあるトルコにとって、軍事攻撃が商船航行と地続きになりつつある状況は頭の痛い課題だ。

なぜ「影の船団」を狙うのか　ウクライナの思惑と新しい戦場

ウクライナ保安局の担当者は各紙の取材に対し、今回の攻撃には国産の水上無人艇「シーベイビー」が使われたと説明している。小型で遠距離まで航行できるこれらのドローンは、正規海軍戦力で劣るウクライナが黒海でロシアに対抗するうえで、近年急速に存在感を増してきた兵器だ。従来はロシア本土の製油所など陸上インフラへの空中ドローン攻撃が注目されてきたが、今回は「海上の標的」を選んだ点に新しさがある。

ウクライナ側が強調するのは、2隻のタンカーが「影の船団」に属し、西側の制裁リストにも載っていたという点だ。アメリカやEUなどは、ロシア産原油の取引価格に上限を設ける「価格上限措置」を導入しているが、第三国の旗を掲げる古いタンカーを中心に、保険や金融の網をかいくぐる船団が形成されてきたと指摘されてきた。ウクライナの担当者は、今回の攻撃で本来なら数千万ドル規模の原油を運べる能力を封じたと主張し、ロシアの戦費調達能力を削ぐ意図をにじませる。

一方で、軍事目標とみなす論理があっても、攻撃対象が民間船舶であることへの懸念は残る。国際人道法上、軍事目的と民間インフラの線引きは戦争が長期化するほど曖昧になりがちだ。ウクライナは、制裁逃れに関与する船はロシア軍の資金源そのものだと訴えるが、保険会社や船主にとっては、黒海航路全体が「いつ攻撃に巻き込まれるかわからない海域」としてリスク評価の見直しを迫られかねない。

トルコと世界のエネルギー市場へ　広がる波紋と残された問い

黒海は、ロシアだけでなくカスピ海沿岸の産油国からの原油や、ウクライナ産穀物を世界に送り出す玄関口でもある。最近では、ウクライナのドローン攻撃により黒海の原油積み出しターミナルの一部設備が損傷し、一時的に世界供給の1％超が止まったとロイター通信などは伝えている。今回のタンカー攻撃は即座に供給不足を招いてはいないものの、「船を狙う作戦」が定着すれば、市場はより敏感に反応するようになるだろう。

トルコ政府は、事件が自国の排他的経済水域内で起きたとし、戦争が黒海全域に波及することへの懸念をにじませた。NATO加盟国でありつつロシアとも一定の関係を保つトルコにとって、黒海の安定は安全保障と経済の双方に直結する。もし今後も類似の攻撃が続けば、海峡通航ルールの運用や、黒海における監視体制の強化をめぐって、沿岸各国と西側諸国との間で新たな調整が必要になりそうだ。

一連の動きは、ロシアの戦費をどう制限するかという制裁の課題と、民間航路の安全をいかに守るかという普遍的なテーマを同時に突きつけている。影の船団を放置すれば制裁は骨抜きになりかねないが、海上攻撃が常態化すれば、黒海は世界の物流網にとってさらに神経質な海域となる。今回の攻撃は、その綱引きのバランスがどこで落ち着くのか、国際社会に静かな判断を迫る出来事となっている。