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アラスカ・アンカレッジの冷たい風が落ち着いた街角に戻るなか、米ロ首脳会談からわずか数週間で、和平への期待は色を変えつつある。ロシアのリャブコフ外務次官が10月8日、会談後に芽生えたウクライナ和平の機運が「ほぼ失われた」と述べ、欧州の「破壊的活動」を名指しした。8月15日の会談直後に膨らんだ期待と、いま広がる警戒。その落差が、外交の窓の狭さを映している。
モスクワが語る「しぼんだ機運」
秋のモスクワで、報道陣が走る。10月8日、リャブコフ外務次官は、アンカレッジ会談で生まれた合意への強い流れが「反対派と戦争支持者の活動」に押し流されたと指摘し、主因は欧州にあると語った。現時点で確認されている範囲では、どの国・措置を指すのかは明示していないが、ロシア側が交渉ムードの後退を公然と認めた意味は重いとみられる。
8月15日のプーチン・トランプ会談は、停戦や安全保障の枠組みをめぐる端緒を作ったと受け止められた。だが、その後トランプ大統領は、プーチン氏が戦争を終わらせないとして失望感を繰り返し、ロシアを「張り子の虎」と表現した。首脳レベルの言葉の温度差が積み重なり、双方の信頼残高が削られた光景が浮かぶ。
一方で、モスクワは欧州の支援持続を「妨害」とみなし、会談の合意形成を難しくした要因と位置づける。Aは会談後の勢いが衰えたと伝え、Bは米側の不満表明を強調するなど、報道の焦点も揺れている。いずれにせよ、合意文書に向けた実務協議の足取りが鈍ったことだけは、各方面の報告で重なるところである。
トマホーク供与が意味する一線
緊張を一段押し上げたのは、米国の巡航ミサイル「トマホーク」をウクライナへ供与する可能性である。リャブコフ氏は、これが「事態の質的変化」を意味すると述べ、ロシア側の警戒は一気に強まった。長射程の精密打撃能力は、前線のはるか後方にまで影響を及ぼし、交戦規模やリスクの輪郭を塗り替えると受け止められている。
トランプ大統領は今週、戦争をエスカレートさせたくないと強調し、供与に同意する前にウクライナが何を目指すのか確認したいと述べた。慎重姿勢のシグナルではあるが、検討テーブルに上がった事実自体が抑止と挑発の境界を揺らす。供与が現実味を帯びれば、発射拠点や後方拠点の防護、報復の閾値など、戦域全体の設計が変わりかねない。
プーチン大統領は10月2日、トマホーク供与は米ロ関係を含めた新たな段階のエスカレーションだと示唆したとされる。ロシア側は、運用に米軍の関与が不可避だとして警鐘を鳴らし、供与が現実化した場合の対抗措置に言及する発言も相次ぐ。言葉の応酬は続くが、当事者の計算は互いの出方を慎重に測る段階に入ったと映る。
欧州の影とアンカレッジ会談の残像
リャブコフ氏は、和平機運を削いだのは欧州の「破壊的活動」だと批判した。ただ、現時点で確認されている範囲では、具体的な政策や個別国を名指しした説明は出ていない。一方の欧米側は、ロシアの侵攻継続こそが交渉停滞の根因だとする立場を崩していない。双方の「原因」認識が噛み合わないまま、会談の残像だけが広がっている。
アンカレッジ会談後の数日間、停戦や安全保障の枠組みに関する可能性が取り沙汰されたが、構想を具体に落とす前に、言動の硬化が先に進んだ。トランプ氏の「張り子の虎」発言に対し、ロシア側は反発を強めた。批判と応酬が続けば続くほど、合意文言の文法は遠のく。外交は言葉の芸術でもある以上、その余白がいまは狭い。
では、どこに出口があるのか。実務協議の再開、武器供与に関する相互のレッドラインの明確化、人道措置の拡充など、積み重ねるべき階段は見えている。だが、政治的コストを嫌う力学が強まれば、階段は容易に外される。合意に至る「機運」を再び起こすには、相手への不信を煽る言葉よりも、検証可能な行動を交差させるしかない。
