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米国政府が、EUのメタン排出規制について、米国産の石油・ガスには2035年まで適用しないよう求めている。ロイター通信が米政府文書を確認した。EUは2025年から、輸入に伴うメタン排出の監視と報告を輸入業者に求め、制度は段階的に厳しくなる。気候対策の「情報提出」が、エネルギー取引の実務と通商交渉を同時に揺らしている。
書類より先に、ガスの出どころを追えない
EUの規制は、輸入業者にサプライチェーンの排出管理を求める設計だ。欧州委員会の整理では、2025年5月5日から輸入品の産地や輸送経路、どんな監視・報告・検証が行われたかといった情報提供が始まる。メタンは天然ガスの主成分で、漏えいすると温暖化への影響が大きい。
ただ、特にLNGは、複数のガス田や事業者のガスが混ざって流通することがある。そこでEUは、第三者が認証した排出値を使う方法や、デジタルで「どの分をどの排出データとして主張するか」を管理する仕組みなど、実務を簡素化する選択肢を提示している。輸入側にとっては価格交渉に加え、排出データを出せる供給者かどうかが調達の条件になる。もし手続き負担で供給が細れば、欧州の調達コストが上がり、国際価格を通じて他地域にも間接影響が及び得る。
「同等性」を巡る交渉が、気候と通商をつなぐ
米側は、規制を事実上の貿易障壁と位置づけ、報告義務の先送りや、米国の制度をEUと同等と認めること、罰則の回避などを求めた。狙いは「排出を減らすこと」そのものより、輸出の前提となる手続きと責任の線引きを、米国主導に寄せる点にある。一方でEUは、規制の骨格は変えずに運用面での対応余地を探る構図だ。2027年1月1日には、輸入品がEU域内と同等の監視・報告・検証（MRV）を持つ地域で生産されたことを示す要件も控える。
今後の分岐は大きく2つある。EUが「米国の枠組みで十分」と同等性を広く認めるのか、それとも国際的に通用する測り方へ揃えるまで要求を緩めないのかで、輸出企業の投資先も変わる。さらに2028年8月5日からはメタン強度の報告、2030年8月5日からは上限値の適用が視野に入り、基準づくりが次の争点になる。衛星で大規模排出を検知し通知する国連のMARSのように、外部データの透明性が増すほど「説明できる排出」が市場参加の条件になっていく。
参考・出典
- US demands EU exempt its gas from methane emissions law, document shows
- EU offers simpler rules to comply with methane law after US pressure
- Methane emissions
- Fit for 55: Council gives final green light to cut methane emissions in the energy sector
- Methane Alert and Response System (MARS) | UNEP – UN Environment Programme
