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通関システムの税率が切り替わり、現場の端末に新しい数字が流れ始めた。10日、米中は首脳合意に沿って関税と関連措置の運用を見直す。米国は合成麻薬フェンタニルの流入対策として上乗せしていた対中関税を半減し、中国は米農産品などへの報復課税を停止する。新たな港湾手数料の課徴や輸出管理の拡張運用も1年間見合わせる。摩擦の熱は下がるが、対立の核はまだ温存されている。
合意の中身は何が動いたか
合意の柱は3つだ。まず米国は、フェンタニル関連の化学品に結びつく対中追加関税を20%から10%へ引き下げる。フェンタニル（強力な合成オピオイド）対策として導入した枠の負担を軽くしつつ、実効性の検証を続ける構図である。次に中国は、鶏肉や大豆など米国産の農畜産物にかけていた報復関税の停止を打ち出した。調達の再開を促し、価格の落ち着きを狙う。
2つ目は、米国が拡張予定だった輸出管理の運用を1年間据え置く点である。対象企業の広がりを自動的に連鎖させる「ブラックリスト」の強化案を、一旦棚上げにする。中国側も対抗措置の一部を外し、半導体や素材を巡る緊張をいったん和らげるとした。監視の目を緩めるわけではないが、企業の予見可能性に余白を戻す意味は小さくない。
3つ目は海での負担軽減だ。米国が中国建造・保有・船籍の船に課す新規の入港手数料を1年間停止し、中国も米国関連船への対抗的な上乗せを外す。秋に導入された制度は航路の組み替えや運賃上昇を招いたが、相互の停止で物流の滞りをほどく狙いだ。一方、米国の「相互関税」（相手に一律上乗せする発想）と、フェンタニル枠の10%は当面残り、追加負担の土台は続く。
産業と物流の呼吸はどう変わるか
農産品では積み待ちが動く。中国の購入再開は、米国内の在庫圧力を和らげ、現地の農家や輸送業者に資金の回りを戻す効果がある。価格は短期に反応しやすいが、契約の積み上げが続けば収益の振れ幅は抑えられるだろう。加工食品や飼料の連鎖もあるため、川上から小売までのコスト転嫁の節度が試される局面だ。
製造業では、レアアースや磁石材料の輸出規制が一時停止される見通しとなり、航空・自動車・防衛などの工程にかかる不確実性が和らぐ。とりわけ代替が難しい部材ほど、調達リードタイムの短縮が効く。もっとも、停止は恒久撤廃ではない。企業は在庫とサプライヤーの分散を進めつつ、規制の再開に備えた設計変更や認証の準備を続ける必要がある。
海運では、相互の港湾手数料の休止がスケジュールの乱れを鎮める。中国建造船や特定の旗を避けるための迂回や書類審査の増加は、秋以降の運賃上昇と遅延を招いた。課徴の一時停止で北太平洋の基幹航路は徐々に落ち着くとみられるが、契約更改の波や船社の配船再編は続く。荷主は割高便の見直しと、ハブ経由の選択肢を並走させる局面だ。
残る火種と次の焦点
今回の措置は「一年の余白」を生んだにすぎない。フェンタニル流通の実効抑止、ハイテク分野の安全保障、造船・物流の産業政策という3層の争点は手つかずである。相互関税の10%が残ることで、価格シグナルはなお緊張を含む。関税の引き下げで失うてこを、輸出管理や補助金で補う動きが強まるとの見立てもある。企業は政策手段の組み替えに備えるほかない。
それでも、港で止まっていた案件が少しずつ進むのは確かだ。税率表の行間に生まれた狭い通り道を、貨物と発注が静かに行き来し始めている。
