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米国のグラス駐日大使が2025年11月10日、中国の薛剣駐大阪総領事のX(旧ツイッター)投稿を「高市早苗首相と日本国民を脅している」と批判した。発端は、高市首相が国会で台湾有事が「存立危機事態になり得る」と述べたことへの反応として、薛氏が「汚い首は斬ってやる」と書き込んだ件だ。外交の場外で飛び交った言葉が、日中米の緊張を一段押し上げている。
公の場で飛んだ非難、広がる波紋
大使が動いたのは、国内の批判が高まる最中だった。グラス氏は自身のXで英語と日本語の2言語を用い、薛氏の投稿を「高市首相と日本国民への脅し」と断じた。就任以降、在日米大使がSNS上で個別の外国要人を名指しで批判するのは異例であり、発信の即時性がそのまま外交の温度感を伝える形になった。米側の姿勢を対外的に示す狙いがにじむ。
非難は一件の言葉遣いにとどまらない。グラス氏は、薛氏が6月にXでイスラエルをホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を行ったナチス・ドイツと同一視する投稿をしていた経緯にも触れ、「再び本性が露呈した」と指摘した。過去の発信を踏まえたうえでの批判は、単発の暴言ではなく、外交発信の態度そのものを問題視した格好だ。
背景には人事の新陳代謝もある。グラス氏は今春に着任した新たな駐日大使で、通商・安全保障の両面で対中抑止を重視する姿勢を繰り返し表明してきた。今回の発信は、その延長線上で「同盟の立場」を即時に可視化した動きと映る。SNSが首都間外交のサイドラインから、実質的な主戦場の一部へと移りつつある現実を物語る。
火種となった国会答弁と政府の抗議
火種は11月7日の国会にさかのぼる。高市首相は台湾有事を巡り、「存立危機事態になり得る」との考えを示した。存立危機事態は、日本の存立が脅かされ国民の権利が根底から覆される明白な危険があると政府が認定する局面を指し、安全保障関連法の枠組みに位置づく。首相の答弁は法制度上の想定を述べた範囲だが、中国側は強く反発した。
その直後、薛氏はXで記事を引用し、高市氏に向け「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と投稿した。暴力を想起させる表現は外交慣行から大きく外れ、国内では批判が噴出。政府も同10日、木原稔官房長官が記者会見で「中国の在外公館の長の言論として極めて不適切」と述べ、外務省ルートで強く抗議した。投稿の速やかな削除と説明を求める対応に出ている。
日本側の抗議は、言葉の激化を放置しない意思表示でもある。国会での政策論争と、SNS上の挑発的な発言は同列には置けない。今回の経緯では、首相の法的枠組みに沿った答弁と、総領事の威嚇的表現が対照的に並び、議論の土俵をずらす効果をもたらした。政府は「趣旨が不明確」としながらも、在外公館長としての品位と責任を問題の核心に据えた。
SNS時代の外交、越えてはならない線
薛氏はこれまでも挑発的な発信を重ねてきたとされる。6月には、イスラエルをナチス・ドイツと同一視する投稿を行い、強い批判を受けた経緯がある。強硬なレトリックは一瞬の注目を集めるが、外交上の信頼や交渉余地を削り、相互の国内世論を硬直化させる副作用が避けにくい。発信の自由度が高いほど、職責に伴う自制と検証の重みは増す。
一方で、日本の政策議論は大きく動いている。防衛力強化の工程表を踏まえ、台湾海峡の不測事態を含むシナリオの検討は避けて通れない。首相答弁はその延長に位置づき、中国側の反発は想定の範囲に入っていたとも言える。だからこそ、やり取りを政策論に引き戻す役割が外交当局には問われる。SNSの強い言葉に政策の舵取りが左右されない環境づくりが要る。
今回、米大使が即座に反応したのは、同盟調整の観点からも示唆的である。安全保障上の立場共有に加え、言葉の節度を求めるメッセージを対外的に発したことで、議論の焦点を「威嚇」から「行動規範」へと引き寄せた。政治指導者の発言と在外公館の発信、それぞれの役割を再確認する契機になろう。