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東太平洋の水平線の向こうで、小舟が閃光に包まれた。動画を投稿したのは、米国のピート・ヘグセス国防長官だ。公海上で麻薬密輸に関与したとみられる船舶を攻撃したと主張し、海面に炎が立ちのぼる瞬間を示した。9月以降、致死的な対麻薬作戦が繰り返され、報道ベースの死者は増え続けている。武力の拡大は、国際法と地域情勢に重い影を落としていると映る。
映像が伝えた爆発の一瞬
2025年10月27日、米軍が太平洋東部でボート4隻を攻撃し14人が死亡した、とする報道が広がった。長官のX投稿を根拠に、映像には停船中の小型ボートが爆発して炎上する様子が収められていたという。生存者の捜索は周辺国当局の責任だとする言及も伝えられ、作戦の射程が公海に及ぶことを示唆したと受け止められている。
同22日には、東太平洋で別の船舶が攻撃を受け、2人が死亡したとの報道もある。ヘグセス氏は大統領の指示に基づく作戦だとし、対象は情報機関が密輸関与を把握していた船で「既知のルートを航行していた」と述べたとされる。9月以降の一連の攻撃で、27日までに少なくとも57人が死亡したと集計する報もあり、致死的な対処が常態化している構図が浮かぶ。
一方で、米公的機関の公表はトーンが異なる。米沿岸警備隊や米南方軍は、東太平洋での取り締まりで大量のコカインを押収し、多数の容疑者を拘束・移送したと発表している。9月18日には特別作戦の結果、累計7万5000ポンド超を押収し59人を拘束したと明かしたが、死者に関する記述は見当たらない。映像が強調する「破壊」と、公式発表が列挙する「押収と拘束」の対比が際立つ。
揺れる根拠と問われる適法性
国際海域での取り締まりは、通常は臨検・拿捕や停船措置、航行不能化のための限定的武力の行使にとどまるのが原則とされる。現時点で確認される範囲では、米側は攻撃対象が「麻薬密輸に関与した」と主張する一方、密輸の現行性や米国に対する急迫の脅威を裏づける証拠の詳細は公開していない。致死的な結果を伴う作戦の適法性は、説明責任の有無で評価が揺れやすい。
投稿映像では船体の一部が意図的にぼかされ、乗船者数の判別も難しい。情報機関の評価に依拠した標的選定がどこまで司法手続きと両立しているのかも不透明だ。「密輸阻止」という公益目的が語られるほどに、個々の事案で必要性・均衡性が精査されたのかという問いが残る。記録の公開や第三者検証の受け入れが、作戦の信頼性を左右するとみられる。
報道はさらに先行する。27日の14人死亡に加え、29日に東太平洋で4人が死亡したとの情報も流れているが、公的機関の一次発表は現時点で十分に確認できない。映像と短文の投稿が世論を牽引し、法的評価が後追いとなる構図は、他の対テロ作戦でも繰り返されてきた。いま必要なのは、時系列と証拠の開示である。
近隣諸国のまなざしと高まる緊張
東太平洋は、中南米の出発点から北米へ向かう海上密輸の幹線である。米国は取り締まりを「対麻薬作戦」と位置づけ、沿岸警備隊や連邦機関が一体で関与する体制を強めてきた。他方で、周辺国では主権や法執行権の線引きに敏感な反応が出やすい。海上での致死的な措置が続けば、協力枠組みに生じる微妙な溝は深まりかねないという懸念が広がっている。
米側の狙いは「海上で密輸を止めること」に尽きるのかもしれない。しかし、海の向こうには日常と暮らしがある。押収量や拘束者数の数字は、確かに取り締まりの成果を物語るが、同時に航路の変化や暴力化の副作用も招きうる。情報が交錯するいま、各国は海域の安全と法の支配をどう両立させるのか。私たちの関心もまた、数字の先にある現場へと向けられるべきだ。
