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AI開発競争で膨らむデータセンターの電力需要に、米政権が原子力で応じようとしている。2025年10月28日、日米両政府は共同ファクトシートを公表し、ウェスティングハウスの原子炉建設などを最大1000億ドル規模で念頭に置くと示した。総額5500億ドルの投資枠とも接続され、停滞してきた新設計画に弾みがつくとの見方が広がっている。
原子力に追い風、共同文書が示した具体像
霞が関の灯りが遅い時間まで残った28日、両政府が差し替えを含めて公表した共同ファクトシートには、電力とAIの現場を直接動かす固有名が並んだ。目を引くのは原子力で、ウェスティングハウスのAP1000やSMRの建設が明記され、日本側の関与先として三菱重工業や東芝、IHIの名が添えられた。数値は「最大1000億ドル」と大きく、計画の輪郭が浮かぶ。
原子力の枠はウェスティングハウスだけにとどまらない。GE Vernovaと日立が手がけるBWRX‑300の建設も「最大1000億ドル」規模で想定され、系統側ではHVDCや変電設備の強化を含む大型機器の供給が列挙された。データセンターの冷却や送電網の安定化まで射程に入れ、AI時代の電源から需要側機器までを一気通貫で押し出す設計と映る。
AI向け電源の章ではNuScaleとENTRA1 Energyの名が示され、ガス火力と原子力の双方での検討がにじむ。これらは、2025年9月5日（日本時間）に日米が署名した総額5500億ドルの戦略的投資の覚書に紐づく案件群として位置づけられ、今後の具体化が期待される。文書が示したのは個別企業の関心と規模感であり、実装フェーズへ向けた出発点である。
資金の流れと政治の意思
この投資ストーリーの骨格は、日米両国が合意した5500億ドルの枠組みにある。米側はエネルギーや半導体、重要鉱物など国家的に重要な産業基盤を再建・拡張する方針を打ち出し、その優先配分先として原子力や送電網が据えられた。雇用や供給網の強靱化を同時に達成する狙いが、政権の経済・安全保障アジェンダに重なる。
共同ファクトシートが特徴的なのは、米国内のプロジェクトに日本の企業・資金・製品の広範な関与を想定している点である。建設や据付だけでなく、タービンや変圧器、光ファイバーから電子部品まで、裾野の広いサプライチェーンが呼び込まれる構図だ。米側の選定方針に沿って日本勢がどう配置されるかが、受注機会の鍵を握る。
原子力をめぐる政治の意思も明確だ。AIの電力を「作る・運ぶ・冷やす」までを一体で整えるには、ベースロードの確保と系統の安定化が不可欠である。原子炉の新増設とHVDC整備、そしてデータセンター設備の更新を同時並行で進めることで、需要の立ち上がりに間に合わせる。投資の優先順位が政策で示された意味は小さくない。
なお残る課題と見通し
もっとも、設計図が描かれたからといって道筋が平坦になるわけではない。原子力の新設は立地の合意形成や規制認可、長納期部材の確保など、多層のボトルネックを抱える。共同文書は関心表明と規模感の提示にとどまり、調達方式や建設スケジュール、費用負担の内訳は今後の詰めに委ねられる。資金繰り不安の解消策が問われる局面である。
具体案件の芽も、精査が進むほど姿を変える可能性がある。例えば原子炉の型式や供給網の分担、米国内製造比率の扱いは、政策誘導と市場環境の微妙な綱引きに左右される。共同ファクトシートは日本企業の関与余地を幅広く残したが、入札や契約、許認可の段階で条件が収斂していくとみられる。柔軟な資金設計と段階的な着工判断が鍵となる。
一方で、AI電源の確保を巡る時間軸は速い。送電・変電の強化や冷却設備の更新は先行しやすく、原子力の大型案件は部材の先行発注や現地人材育成といった地ならしから動く公算が大きい。2025年10月28日の文書公表を起点に、個別の覚書や受注のニュースが段階的に積み上がるか。投資の実需と政策の歩調が試される。
