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ロンドンのテムズ沿い、国際海事機関の本部に各国代表団が集う準備が進む。その空気を切り裂くように、2025年10月11日、米国が「ネットゼロ・フレームワーク（NZF）」採択への賛成国に制裁を科し得ると警告した。ビザ制限や米国港への入港禁止まで含む強い圧力だ。海運の脱炭素を巡る国際合意の行方に、緊張が走っている。
制裁警告の中身と政権の言葉
声明が伝わったのは、来週の投票を前に議場外の駆け引きが一段と熱を帯びるタイミングである。米国は、国連専門機関である国際海事機関が主導するNZF案に賛成する国に対し、幅広い懲罰措置を取り得ると示した。各国の足並みを乱すには十分な強度を持つ言葉であり、海運と貿易の現場にざわめきが広がっている。
米政権の発信は明確だ。国務長官のマルコ・ルビオ氏、エネルギー長官のクリス・ライト氏、運輸長官のショーン・ダフィー氏が連名で、IMOに提出された提案を「明確に拒否する」と表明した。彼らは、NZFが「容認されていないグローバルな課税体制を各国に押し付け、経済に重大なリスクを与える」と強い表現で批判したと伝えられている。
警告の中身は具体的である。賛成国の政府関係者に対する制裁の検討、該当国籍船舶の米国港への入港禁止、ビザ（査証）制限や追加的な手数料の付加など、外交・通商・交通の複数ルートを通じた圧力を組み合わせる構えだ。各国の投票行動に直接的な代償を結びつけることで、NZFの成立を押しとどめる狙いが浮かぶ。
一方で、NZFの支持国や業界の一部には、国際的なルール整備の必要性を訴える声が根強い。世界の貿易の約8割を担う海運は温室効果ガスの約3％を排出するとされ、国境を越える航路に国別規制の継ぎはぎが広がれば、コストだけが増えて実効性を欠くという懸念がある。対立する見立てが、投票直前の緊張を高めていると映る。
NZFをめぐる票読みと広がる波紋
NZFは、国際海運の脱炭素に向けた世界的な枠組みづくりを目指す合意案である。燃料転換や効率化の加速、一定の価格シグナルの導入を含むとされ、採択されれば各国の海運政策に共通の基準が通ることになる。合意の実像は交渉の積み重ねで磨かれてきたが、最終盤で米国が強い警告を放ち、投票の力学に新たな力が加わった格好だ。
一部報道によれば、これまでも米国は各国に反対を促す働きかけを強めてきたとされる。支持と反対、棄権の分布は流動的で、採択の可否は依然読みにくい。海運大手の中には、投資家からの気候対応要請を背に「世界で整合した枠組みが不可欠」と訴える企業がある一方、原油輸送などを担う一部の船社はコスト負担の急増や競争条件の不均衡を警戒していると伝えられている。
国際政治の文脈でも波紋は広い。年初以降、途上国を含む複数の国が「一律の賦課は貿易や食料価格に不利益を与え得る」と懸念を示してきた経緯がある。他方、欧州や日本などは、国際的な価格付けの必要性を支持する声が強い。Aはこう伝えたがBはこう報じている――という断片が重なり、NZFは気候と通商の交差点に立つ提案であることを際立たせている。
来週の票決は、海運の脱炭素をめぐる「世界の歩調」を占う節目になるとみられる。合意が進めば技術投資や燃料供給の見通しが立ちやすくなる一方、頓挫すれば各国・各地域ごとの規制が入り乱れ、事業者のコストと不確実性はむしろ膨らむかもしれない。警告と反発が錯綜する中で、各国はどの航路を選ぶのか。答えは間もなく示される。
