「和平後も強いウクライナ軍を」　メルツ独首相が安全保障の条件明示

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2025.11.28

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ドイツのメルツ首相は11月27日、ロシアとの和平合意が結ばれた後も、ウクライナには強力な軍と同盟国からの安全保障上の保証が欠かせないと強調した。キーウは領土を差し出すべきではないとも述べ、欧州全体の安全保障の行方に踏み込んだ発言だ。本稿は、和平後のウクライナ防衛を誰がどこまで支えるのかという問いから、この発言の意味をたどる。

前線の兵士と市民に伸びる「長い戦争」

ベルリンでエストニア首相と並んだ会見で、メルツ氏は「和平が成立してもウクライナは強力な軍隊と信頼できる保証を必要とする」と語り、最前線の防衛態勢が長期戦を前提に組み直されるべきだとの見方を示した。また、現在の前線を交渉の出発点とし、キーウに領土放棄を迫るべきではないとも述べている。

首相が「最も重要な保証」と位置づけるのは、装備の整ったウクライナ軍そのものだ。欧州側は戦後の兵力規模をめぐり、上限を60万ではなく80万人とする案を支持していると報じられる。兵力を大きく削れないということは、停戦後も多くの若者が兵役にとどまり、家族や地域経済が長く動員の影響を受けることを意味する。

ウクライナでは既に、砲撃や停電と隣り合わせの生活が3年近く続き、前線から戻れない兵士の家族が日常を支えている。一方、欧州各国でも国防費の増額や徴兵制の議論が広がり、市民負担への懸念は強い。2025年春のパリ首脳会合では、停戦後に外国部隊を展開する「安心部隊」構想も協議されたが、「市民生活の安心」と「抑止力維持」のバランスをどう取るかで意見は割れたままだ。

ドイツが掲げる「強いウクライナ軍」戦略

メルツ氏は今回の会見で、守るべきなのはウクライナだけでなく欧州全体の安全だと位置づけた。安全保障の保証をめぐっては、米国やウクライナと協議を進めているとし、その中心に「よく訓練され、十分に装備されたウクライナ軍」を据える考えを示している。NATO加盟の是非がなお議論的な中で、ウクライナを事実上の前線国家とし、欧州の防波堤にする発想だ。

その一方で、停戦後に欧州諸国の部隊をウクライナに駐留させる案について、メルツ氏は「議論するには時期尚早」と慎重な姿勢を示した。仮にNATO加盟国の兵士が現地に常駐すれば、ロシアとの偶発的な衝突が一気に同盟全体の戦争に拡大しかねないという懸念がある。欧州はまずウクライナ軍の強化を優先し、自国兵士の前線投入は最後の選択肢にとどめたい思惑をにじませる。

メルツ氏は数日前、トランプ米大統領との電話会談でも、1994年の「ブダペスト覚書」がロシアの侵攻を防げなかった失敗に触れ、紙の上の約束だけでは不十分だとの認識を示している。過去の教訓から、彼は新たな和平合意ではより強固な保証と、実際に戦力を備えたウクライナ軍の両方が不可欠だとの主張を強めている。

和平後の秩序をめぐる欧州と市民の選択

ウクライナに領土の譲歩を求めるべきではないというメルツ氏の立場は、ロシアによる力による現状変更を認めないという原則に基づく。しかし一方で、現在の前線を交渉の出発点とする発想は、占領地の将来や住民の帰還が長く棚上げされる可能性もはらむ。和平は戦闘の終結であっても、国境線や難民問題をめぐる政治闘争は続くことになる。

欧州では、NATO型の正式な集団防衛に踏み込むのか、多国間の「保証国グループ」が長期的な軍事支援と訓練を続けるのか、さまざまな青写真が検討されている。米国の関与が不透明になる中、仏英などは停戦監視や抑止のための部隊構想を提案してきたが、財政負担やエスカレーションのリスクを懸念する国も多い。

ウクライナに強い軍を維持させるという選択は、欧州の市民にも長期の負担を求める。その重さと、ロシアの再侵攻を許すリスクのどこで折り合いをつけるのかが、これからの欧州政治に静かに突き付けられている。