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秋の川霧がひくザポリージャ原発の冷却塔の向こうで、緊張だけが濃くなっている。2025年10月2日、ロシアのプーチン大統領が「原発付近への攻撃は危険だ」と述べ、ウクライナ側の原発に対する報復の可能性に言及したと一部報道が伝えた。外部電力の脆弱化が続く現場に、軍事的な応酬が重なる構図である。核の安全保障をめぐる一線が、さらに細く揺らいでいると映る。
プーチン発言が投げかけた影
2025年10月2日、プーチン大統領はザポリージャ原発周辺での攻撃は「極めて危険だ」との認識を示し、ウクライナ側が管理する原発が攻撃に関与すればロシアが報復し得ると示唆したと報じられた。どの場面での発言か、公式記録の公開は限定的で、現時点で確認されている範囲では詳細は断片的である。それでも、原発を軍事的な抑止の文脈に置く言葉は、地域全体のリスク認識を一段押し上げる響きを持つ。
ロシア側は、原発が自らの管理下にある以上、周辺への攻撃をロシアが行う合理性はないと主張している。一方で、攻撃主体をめぐっては双方の非難が循環し、確定的な検証には至っていない。誰に有利なメッセージなのか、偶然か必然か。発言の受け止めは、軍事の力学と情報戦の揺らぎのなかで分岐しているとみられる。
電力が細る原発、続く緊張
ザポリージャ原発は稼働停止のまま、炉心と使用済み燃料の冷却に外部電力を必要としている。送電線の被害や周辺の戦闘により、外部電力の確保は「糸一本」に例えられる脆弱さを抱えてきた。国際原子力機関（IAEA）は、2025年5月8日の時点で同原発が単一の送電線に1週間以上依存した局面があったと明らかにしており、構造的なリスクが常態化している現実が浮かぶ。
外部電力が絶たれれば非常用ディーゼル発電で安全機能を維持するが、それは時間と資源に限りがある保険でしかない。爆発音や砲撃の兆候が観測されるたび、現場の作業は延期や中断を強いられ、保守と安全余裕の両立は難度を増す。軍事行動が電力インフラと保全計画をじわじわと侵食する状況は、単発の事件ではなく、日常に組み込まれた危うさとして広がっている。
ウクライナ側の疑念と応酬の構図
同日、ウクライナのシビハ外相は、ロシアが外部電源を意図的に遮断し、自国の送電網への接続を狙っていると指摘したと伝えられた。前日の10月1日にはゼレンスキー大統領が、ロシアは原子力事故のリスクをつくり出そうとしていると強く非難している。いずれも直接の証拠の提示は限定的で、現時点で確認されている範囲では、具体的な技術作業や切替工程の検証は不十分である。それでも、電力の「首根っこ」を押さえることで支配を固定化する発想が、疑念として根強いことは否めない。
ロシア側は状況は概ね制御下にあるとし、攻撃や停電の責任をウクライナ側に帰す姿勢を崩していない。ウクライナ側は自国領への砲撃やインフラ破壊を背景に、占拠の既成事実化を許さないと反発する。発電所の安全確保は、領土と語りのせめぎ合いのただ中に置かれていると映る。
必要なのは「沈黙」と検証、そして距離
原発の安全にとって、まず必要なのは砲声の沈黙である。IAEAは安全確保のための原則を繰り返し掲げ、発電所周辺での軍事活動の抑制と、外部電力の安定的確保を最優先課題としてきた。現場には国際監視団が常駐し、冷却水位や電源状態を点検しているが、銃声一つで予定は変わる。保守と監視の「当たり前」を取り戻すには、双方の「距離」を確実に広げる政治判断が要る。
情報面でも、断片的な映像や声明が先行しやすい。発言の真意や攻撃主体の特定には、時間軸と証拠の整合をとる冷静な検証が不可欠である。誰の物語が勝つかではなく、どの事実が安全を支えるか。電力という見えないライフラインを守る決定が、最終的に地域の安定を左右する。政治的メッセージの応酬に埋もれがちな現場の課題を、いま一度見つめ直したい。
