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夜の映像に映った表情は険しかった。ウクライナのゼレンスキー大統領が現地時間の21日、日本時間では22日未明に公開した演説で、米国による長距離巡航ミサイル「トマホーク」供与の判断が先送りされた影響に言及し、ロシアが「ほぼ自動的に外交への関心を失った」との見方を示した。対話の糸口と火力の現実が、同じ天秤に載る時代を映す発言である。
前線を起点にした対話という合意
ゼレンスキー氏は、米国のトランプ大統領と会談し、「現在の前線に沿って対話を組み立てる」ことで合意したと明らかにした。現状の接触線を交渉の出発点に据えるという合図が米側チームにも伝えられ、公にされたと述べた。大統領は「前線は外交の着火点になり得る」として、当面は戦況の固定点を共有しながら、停戦や安全保障の骨格を探る段階に入るとの空気をにじませた。
一方で、同氏はロシアの姿勢に強い不満を示した。長距離攻撃能力の付与が「差し迫った課題ではなくなった」途端に、ロシアの外交的関心が「ほぼ自動的に」薄れたと指摘し、長距離打撃の議論そのものが相手の行動を変えると主張した。前線が交渉の座標となるほど、相手がテーブルから離れようとする——そんな力学が浮かぶ。
トマホークは「外交への投資」という読み
ゼレンスキー氏は「トマホークの議論は外交への強力な投資になった」と語り、「ウクライナの長距離能力が高まるほど、ロシアの戦争終結への意欲も高まる。ここ数週間でそれが改めて確認された」と強調した。供与の是非が報じられるだけで、相手の計算に変化が生じたという自己評価である。長距離打撃のカードが、実戦の抑止と机上の駆け引きの両面で重みを増していると映る。
米側の決定が直ちに下らなかったことについて、同氏は具体的な表現を避けつつも、テーマが「差し迫った課題ではなくなった」と述べ、事実上の先送りを示唆した格好だとみられる。そのうえで欧州と米国の同盟国と、長距離兵器をめぐる追加協議を続ける意向を明言した。議論の存在そのものが外交圧力になる、という読みが前面に出る。
防空をめぐっては、米国との間で「必要な数のパトリオット」取得に向けた契約準備を進めるよう指示したと述べ、対話のテーブルを支える安全保障の実材を積み増す構えを示した。電力網への攻撃が続くなか、欧州首脳らとの協議を週内に控えるとも記し、制裁の強化や凍結ロシア資産の活用など、包囲網の穴を埋める課題を列挙した。
揺れる米ロの段取り、細る「外交の余白」
米ロ首脳会談の実現性をめぐっては、準備会合の日程に遅れが出ているとの観測が広がっている。一部報道では、米国務長官ルビオ氏とロシアのラブロフ外相による調整が見送られたと伝えられたが、公式発表は限られており、現時点で確認されている範囲では流動的だと言わざるを得ない。むしろ確かな一次情報として残るのは、ウクライナ側が前線を起点にした対話に意欲を示しつつ、同時に防空と長距離打撃の強化を進めるという二正面の構えである。
交渉の出発点を「いまある前線」に置く発想は、停戦の現実味を高める一方で、領土と正義をどう整合させるかという難問を手元に残す。大統領はロシアの「外交回避」を強く批判し、19番目の対露制裁パッケージの必要性にも触れた。火力の議論が止まれば外交も止まる——そんな彼の読みは、戦況の硬直が続く秋の東欧で、重い温度を帯びて広がっている。
