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欧州の航空機メーカーAirbus（エアバス）は11月28日、A319やA320、A321など「A320シリーズ」の一部で、強い太陽フレアに伴う放射線が飛行制御データを乱すおそれがあると公表した。世界中で約6000機に達する該当機は、順次ソフト改修などの対応が必要とされる。突然浮かび上がった宇宙天気リスクを、航空会社と乗客はどう分かち合うのか。本稿では、その影響と背景を追う。
乗客と現場を直撃する「宇宙天気」リスク
最初に影響が表れたのは、空ではなく空港ロビーだった。A320系列機を運航する全日本空輸は、エアバスの要請に基づく整備のため、11月29日の国内線65便をあらかじめ欠航とした。Aviation Wireによれば、約9400人が行き先の変更や予定の組み直しを迫られる見通しだとされる。利用者にとって、原因が太陽フレアという目に見えない現象であることは、事情を理解しにくくする一因でもある。
一方で、整備側には時間との戦いが続く。エアバスが各社に示した計画では、多くの機体は数時間のソフトウェア更新で対応できるが、一部の機体では部品交換を伴うハードウェア改修が必要になる。短時間で済む機体は夜間や折り返しの合間に作業できるが、交換作業が必要な機体は長時間の整備が避けられず、ダイヤ全体の組み替えに波及する可能性が高い。
現場の担当者にとっては、「目に見えない宇宙線」がもたらすトラブルを、運航上のリスクと乗客への説明責任の両面から扱わなければならない。安全を最優先に欠航や機材繰りを決めつつも、頻度の低い現象にどこまで備えるかは、今後も議論が続く論点だ。今回の対応は、宇宙天気という新たな前提が日々の運航計画に組み込まれ始めたことを象徴している。
エアバスと規制当局が急ぐ修理と安全網
CNNや各国メディアの報道によると、エアバスは最近の飛行中トラブルの解析から、強力な太陽フレアに伴う宇宙線がA320シリーズの飛行制御に必要なデータを破損し得ると結論づけた。対象はA319、A320、A321などで、単通路型旅客機として世界的に主力となっている機種だ。この規模で同一シリーズに改修が必要になるのは異例であり、航空会社の運航計画にも無視できない影響を及ぼす。
欧州航空安全機関（EASA）はすでに緊急の耐空性改善指令を発出し、域内の運航会社に対してA320系列機への対策を義務付けた。AP通信などによれば、指令に基づき各社はソフト更新を優先的に進め、一部機体については次回の大規模整備でハード改修を行う方針だという。今後は米連邦航空局（FAA）など他地域の当局も同様の措置を取るとみられ、世界的な足並みが問われる局面に入っている。
もっとも、各紙の報道では、今回の問題がただちに致命的な事故につながる状況ではないことも強調されている。現代の旅客機は飛行制御コンピューターを複数系統で冗長化しており、異常が起きても自動的にバックアップ系へ切り替える設計になっているためだ。それでも想定外のデータ破損が確認された以上、メーカーと当局は一段高い安全水準を求められており、その結果として短期的な運航の混乱が生じている構図だと言える。
太陽フレア時代の空の安全、これからの課題
今回浮かび上がったのは、太陽活動と航空の距離が想像以上に近いという事実だ。TBS系のNEWS DIGなどが伝える専門家の説明では、強い太陽フレアは通信障害やGPSの位置誤差も引き起こし得る。デジタル化された飛行制御や衛星航法に大きく依存する現代の航空では、機体単体の故障だけでなく、宇宙からの影響を含めた「システム全体」の安全性を考える必要がある。
一方で、こうしたリスクは非常にまれであるがゆえに、どこまで費用と運航の自由度を犠牲にして備えるかという難題も突きつける。ソフト更新や部品交換にはコストがかかり、改修のために便を減らせば、結果として運賃や利便性に跳ね返る。航空会社、メーカー、規制当局のいずれも、乗客の安全と移動のしやすさのバランスをどう設計するかを問われている。
日本ではA320シリーズが国内線や近距離国際線の主力機材の一つであり、今回のような宇宙天気由来のトラブルは、遠い宇宙の出来事が日常の移動に直結することを示した。太陽フレアそのものを止めることはできない以上、必要な情報が迅速に共有され、便の見直しや機材変更がスムーズに行える仕組みを整えることが、これからの空の安全を支える鍵になっていくはずだ。
