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企業経営者が集まったメルボルンの壇上で、マイク・バージェスASIO（オーストラリア保安情報機構）長官が声を落とした。中国政府・軍に関わるハッカーが豪州の通信や重要インフラを継続して探り、破壊工作が実行されれば経済は混乱しかねないという。昨年の被害規模や企業秘密流出の深刻さも示し、備えを急ぐよう訴えた。
ビジネスの壇上で突きつけられた現実
12日、長官はメルボルンのビジネス会合で、豪州の通信網や電力、水、輸送などに対し不審なスキャンや侵入の試みが観測されていると説明した。名指ししたのはソルト・タイフーンとボルト・タイフーン。いずれも中国の情報機関・軍のために動く集団だと述べ、活動は継続的で静かに拡大していると強調した。
長官は、米国で明らかになった事前配置型の作戦に触れ、通信や制御系に“出入口”を作って潜み、緊張時に機能を止める狙いがあると解説した。広域の通信が同時に止まれば、交通計画や救急の連絡、金融決済が一斉に滞る。選挙の最中であれば社会不安を煽る材料にもなり得るとした。
会場は豪証券投資委員会（ASIC）が主催するフォーラムだった。安全保障の話が、企業の内部統制やレジリエンスの議題として真正面から扱われた意味は重い。長官は、侵入が達成された後は攻撃側の“意図”の問題になるとし、検知と復旧の前提を早急に整えるよう呼びかけた。大使館側のコメントは確認されていない。
数字が語る被害とリスク
被害の規模も具体化した。長官は、スパイ行為が国内にもたらした損失を昨年度で125億豪ドルと推計し、このうち企業秘密や知的財産の流出が20億豪ドル相当だと明らかにした。研究データや設計情報の転用は、売上だけでなく雇用や市場参入の機会損失にも波及すると説明した。
ASIOと犯罪学研究機関の共同分析では、重要インフラに対するサイバー破壊が1件で経済に与える打撃は11億豪ドル規模、全国的な障害が1週間続けば60億豪ドルに膨らむとの試算が示されている。数字は一例にすぎないが、サプライチェーンの結節点が止まる重さを可視化する。
通信は経済活動の最上流にある。1つの電話網が数時間止まるだけでも、顧客対応や医療予約が遅れ、現場は手作業に戻る。プラントの遠隔監視や港湾物流のスロット管理まで遡上すると、遅延は指数関数的に増幅する。攻撃の巧妙化よりも、社会のデジタル依存の深まりが被害を大きくしている。
何が狙われ、どう備えるか
両集団は、侵入後に内部構成を綿密に把握し、検知されにくい持続的な足場を築くことで知られる。狙いは情報窃取にとどまらず、非常時に停止・妨害ができる態勢を“平時のうちに”整えることだ。豪州の通信や運輸、水道、エネルギーでも同様の“探り”が確認されていると長官は語った。
備えは技術対策だけではない。運用中のシステムに迂回路を用意し、ネットワーク分離や特権管理を徹底し、バックアップと復旧訓練の頻度を上げる。委託先と相互に侵入検知の情報を共有し、手動運転への移行手順を現場で試す。経営会議の議題として、停止前提の意思決定ラインも整える。
選挙や大型イベントの期間は、うわさや偽情報が障害に重なって混乱を増幅しやすい。公式の連絡経路を複線化し、自治体と事業者が同じ文面で同時発信する段取りを持つだけでも、動揺は抑えられる。安全保障は専門機関だけの領域ではなく、日々の運営に織り込む管理作法になっている。
