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壇上に立ったマールズ副首相兼国防相は、「世界で最も大きな軍備増強は中国だ」と切り出し、南シナ海を含む海上輸送路を守る豪海軍の任務は一段と危険になっていると述べた。発言は軍備の透明性をめぐる警戒をにじませ、豪州が海軍力の質と射程を押し上げる方針を改めて示すものだ。シドニーで開かれる国際会議の冒頭で、会場は静かな緊張を帯びた。
シーレーンを守る任務は今、より危険に
2025年11月4日、シドニーの展示会場で始まった海洋安全保障の会議。マールズ氏は開幕直後の演説で、豪州の繁栄を支える海上輸送路がいかに脆弱になりうるかを強調した。自由な航行と海の規範が揺らぐ局面で、王立海軍の「日々の仕事」は秩序の維持そのものだと位置づけた。
同氏は、最大規模で進む軍備増強が戦略的な安心感を伴っていない点を問題視した。明確な意図の説明が乏しいまま力が積み上がると、周辺での警戒が連鎖し、現場のリスクはじわりと高まる。豪州を含む多くの国が「対応を迫られている」との言葉に、会場の空気が少し硬くなる。
海上では、航路監視や共同訓練のような地道な任務が増えつつある。南シナ海や東シナ海の水路で規範を示し続ける作業は、外交と作戦の間にある微妙なバランスの上に立つ。指揮官の語り口は穏やかだが、船乗りたちの判断ひとつが緊張の度合いを変えることを示していた。
長射程で「より致命的」な海軍へ
演説の中核は、海軍の質的転換にある。より能力が高く、遠方まで届く打撃力を備えた艦隊を整えることで、日常任務の安全余裕を広げるという考え方だ。抑止の厚みを増せば、危険に近づかずに秩序を示せる場面が増えるという計算が背景にある。
豪州は新型フリゲートの調達を決め、初期艦は海外の生産ラインで建造し、その後は国内での建造に移す段取りを描く。機能面では対空・対潜・対水上の各分野で均衡の取れた装備を前提に、運用人員の効率化と長距離の打撃手段を重視する。演説では、決定の速度と「変更なし」での導入を徹底し、早期の就役を図る姿勢が繰り返された。
こうした艦隊像は、同盟・準同盟との相互運用を強める狙いとも重なる。海上での共同運用が滑らかになれば、船団護衛や情報共有の即応性が上がる。安全保障の硬直を避けつつ、遠方からの抑止力を確保するための「距離の使い方」を、造船と装備の選択で描き直している印象だ。
自律型無人機と造船拠点の底上げ
水面下でも装備の幅は広がる。米企業アンドゥリルがシドニーで水中無人機の生産拠点を立ち上げ、海軍との大型契約に基づく供給体制が動き出した。有人艦を危険に近づけずに偵察や機雷戦を担える装備は、日常のパトロールから有事の初動まで使い道が広い。量産のめどが立てば、運用の柔軟性は一段と増す。
同時に、インド洋に面した西オーストラリアのヘンダーソンでは、防衛造船の基盤強化が進む。政府は防衛専用の造船・整備拠点を整備し、艦艇の継続建造と将来の原子力潜水艦の維持をにらんだ設備投資を進める方針だ。長期の仕事量を見通せる環境は、人材とサプライヤーを育て、装備更新のテンポを支える。
展示ホールでは模型の艦影と計器の光が並び、来場者の足取りは途切れない。機械の静かな唸りと、記者の打鍵音が交じる。言葉は抑制され、決定は積み上げられていく。海をめぐる力と規範の綱引きは、こうした現場の積層の上に、静かに形をとっていた。
