中国、初の実数排出削減を表明 2035年に7〜10％

2025年9月25日、中国が温室効果ガス排出の「実数」での削減に初めて踏み込んだ。習近平国家主席は国連総会の関連会合に寄せた動画演説で、2035年までに経済全体の温室効果ガス排出をピーク比で7〜10％減らすと表明した。世界最大の排出国が明示的な削減幅を掲げた意味は重い。他方で、地球の気温上昇を抑える国際目標と比べ、十分なのかという問いが早くも突きつけられている。

中国が掲げた新しい柱と、その語り口

演説は「経済全体・温室効果ガス全体」を対象に据えたうえで、削減の起点を「ピーク水準」とする考え方を繰り返し強調した。数値目標の中核は2035年の7〜10％削減だが、あわせて非化石エネルギーの消費比率を30％超に引き上げる方針も示した。さらに、排出量取引市場の対象を高排出部門へ広げること、新エネルギー車を新車販売の主流に据えることを並べ、制度と市場の両輪で移行を押し進める姿勢を打ち出した。

電源側のテコ入れでは、風力と太陽光の設備容量を2020年比で6倍超へ拡大し、合計3,600ギガワットを目指すと明言した。国内で急増したパネルとタービンの配備を「基礎体力」として、送配電強化や系統の柔軟性向上に投資を振り向ける構図である。巨額の製造能力と建設力を背景に、再生可能エネルギーが負荷の谷間を埋め、火力の稼働を押し下げる絵姿を描く。

土地側の吸収源も外さない。森林蓄積量を240億立方メートル以上へ拡大し、土壌や都市のインフラ整備まで含めた「気候適応型社会」の基本形を整えるとした。ピークの時期そのものは明示しなかったが、国家全体の温室効果ガスのネット排出で語る手法を貫き、長期の中立化に向けた「中間の踊り場」を一段具体化させた構成である。

評価は割れる——「一歩前進」と「まだ足りない」の間

国際社会の反応は、素直な評価と物足りなさが交錯する。「最大の排出国が初めて絶対量の削減を掲げた」という点は前向きに受け止められた。他方で、欧州連合は新目標を「不十分」と評し、1.5度目標と整合する道筋が見えにくいと指摘した。温室効果ガス全体を対象とする設計は評価しつつも、各国が加速を迫られる局面で中国の「ベースラインからの幅」が小さいのではないか、という懸念がにじむ。

環境NGOの間でも、トーンは総じて厳しめだ。グリーンピース東アジアの政策顧問は、期待を抑えていた向きにとっても今回の数字はなお不十分だと述べた。他方で、中国が再生可能エネルギー拡大でしばしば「目標超過」を積み上げてきた事実から、実績が紙の目標を上回る可能性に言及する見方もある。7〜10％という幅は、国内の移行速度に応じた「最低保障」に近いのではないか、という読みもある。評価が割れるのは、現実の排出曲線と投資の勢いが、国家目標の文言より速いのではないかというねじれの表れでもある。

今回のメッセージは外交文脈も帯びる。演説は気候資金や技術協力での「共通だが差異ある責任」を重ねて語り、先進国の役割と途上国の開発権の両立を主張した。国内のクリーンテック産業を梃子に供給網の国際協調を訴える一方、保護主義的な障壁には警戒感をにじませる。「自助」と「国際環境」の双方が達成の前提だと位置づけたのも、投資と貿易の潮目を強く意識しているからだろう。

COP30までの時計の針と、中国が握るカギ

年末のCOP30は、ブラジル・ベレンで2025年11月10〜21日に開かれる。各国はこの場に向け、2035年を射程に入れた新しい気候計画を整えつつある。中国の発表は、世界の排出曲線に最も影響を与える当事者の「初期設定」を可視化した意味を持つ。議場では、非化石エネルギーの比率引き上げに加え、電力市場設計や系統投資、排出量取引の拡張といった実装論が焦点になるはずだ。

首脳級の日程は現地で11月6〜7日に先行して組まれる見通しで、政治のシグナルと交渉の技術論が交錯する。今回の中国の方針は、森林や適応を含む「総合パッケージ」であり、交渉現場でも扱いやすい形に整えてある。残る論点は、ピーク年の明確化や、国内の部門別ロードマップの開示頻度だろう。制度を動かす力学と、加速するクリーン投資の実勢が一致すれば、目標の上振れ余地は小さくない。

数字は目安であり、実装がすべてである。中国のエネルギー転換は、国内の需要循環や産業政策と一体で進む。その歩幅が国際目標に追いつくのか、あるいは追い越すのか。ベレンで交わされる議論は、7〜10％という“一行の数字”の先にある現実を試す場になる。