習・トランプ会談後に統計変化　レアアース供給の“政治性”が再び浮上

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2025.12.08

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中国税関総署は8日、11月のレアアース（希土類）輸出が前月比26.5％増の5,493.9トンとなり、2カ月連続で増加したと公表した。10月末には習近平国家主席とトランプ米大統領がレアアース輸出の加速で合意しており、その直後に統計上の変化が表れたかたちだ。本稿では、日本を含む製造業の調達現場にとって、この「急増」がどんな一息とどんな新たな不安をもたらすのかを整理する。

調達現場にとっての一時的な安堵と、続く神経戦

レアアースは電気自動車用モーターや風力発電の発電機、スマートフォンなどに欠かせない素材であり、多くの日本企業も中国産に大きく依存している。11月の輸出増加は、在庫を取り崩してきた調達担当者にとって、短期的には「品薄懸念がやや和らいだ」サインと受け止められやすい。実際、中国の輸出は今年に入り全体として増加傾向にあり、1〜10月累計では数量ベースで前年同期比2桁増となっている。

一方で、この増加は自然な市況変化というより、政策と外交の影響を強く受けている。中国は今年4月以降、一部の中重希土類や関連装置に対する輸出管理を導入し、輸出には個別の許可が必要になった。各国メーカーは、規制の細部を読み解きながら契約を組み立てる必要があり、輸出量が増えたからといって「これで安心」と言い切れる状況ではない。

中国はレアアースの採掘で約7割、精製では9割前後のシェアを握るとされ、サプライチェーン全体を通じて圧倒的な存在感を持つ。日本や欧米のメーカーは、調達先分散や代替素材の開発を進めてきたが、コストや性能の面で完全な代替には時間がかかる。結果として、「中国からどれだけ出てくるか」を毎月の統計で確認しながら、生産計画を細かく調整する神経戦が続いている。

習・トランプ会談の合意が映す、両国の思惑

今回の輸出急増の背景には、10月末に行われた習近平国家主席とトランプ米大統領の会談がある。両首脳は、レアアースを含む重要鉱物の供給を加速させることで合意し、その後の11月統計で輸出が大きく伸びた。国別の詳細は12月20日に公表される予定で、増えた分がどの程度米国向けなのか、あるいは欧州やアジア向けなのかが今後の焦点となる。

この合意は、4月以降の輸出規制の流れと表裏一体だ。中国政府は、輸出管理の枠組みを維持しつつ、民生用途など「正当な需要」に対しては迅速に許可を出すと説明している。最近は、大口・定常的な取引先を対象に、手続きの簡素化につながる「包括ライセンス」の発給も進めているとされ、合意後の輸出増には、こうした制度運用の変化も重なっている可能性がある。

米国側にとっては、防衛産業や電気自動車産業を支えるレアアースを安定的に確保することが最優先課題だ。一方の中国にとっては、戦略資源としてのレアアースを梃子にしながらも、「信頼できる供給国」としての評判を損ないすぎないバランスが求められる。会談での合意と足元の輸出増は、その綱渡りの一局面といえる。

依存は続くなかで、誰がどのコストを負担するのか

足元の統計を見ると、今年6月にはレアアース輸出が7,700トン超と、2009年以降で最高水準に達した月もある。11月までの累計輸出も前年を上回るペースで推移しており、数量ベースでは「出し渋り」どころか増勢が続いている。しかし、これは各国が在庫積み増しを急いだ結果でもあり、政策変更ひとつで流れが反転しうることを、市場関係者はよく知っている。

そのため日本企業にとっての課題は、「中国から買うか・買わないか」という二者択一ではなく、「どの程度まで依存を許容し、そのリスクに備えてどれだけ余分なコストを払うか」という配分の問題になりつつある。調達先の分散、使用量削減設計、リサイクル強化などは、いずれも短期的にはコスト増として跳ね返るが、将来の供給ショックを和らげる保険とも位置づけられる。

欧州では、自前の鉱山開発やリサイクル投資を支援する基金を用意する動きも出ており、政府が一部コストを肩代わりすることで企業の行動を後押ししている。日本でも同様に、どこまでを企業の自己責任とし、どこからを産業政策として支えるのかという線引きが改めて問われている。11月の輸出急増は、目先のひっ迫感を和らげた一方で、そうした長期的な負担の分担を考え直すきっかけにもなりそうだ。