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秋の相場を映すモニターに、半導体関連のティッカーが赤く点滅した。火種はワシントン発だ。アメリカと中国共産党の戦略的競争に関する下院特別委員会が数カ月の調査を経て、アメリカと日本、オランダの半導体製造装置メーカーが中国の製造能力を押し上げてきた実態をまとめた。報告は規制の「すき間」を突く資金と装置の流れを描き出し、同盟国を巻き込んだ厳格な足並みを求めた。技術覇権の綱引きが、次の局面に入ったと映る。
委員会が突きつけた数字と現実
特別委員会は「Selling the Forges of the Future」と題する調査報告書を、2025年10月7日に公表した。報告は、アメリカのアプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、KLA、オランダのASML、日本の東京エレクトロンという五社が、中国にとって不可欠な半導体製造装置（SME）の供給源になっていると指摘する。2024年の中国向け購入額は合計380億ドルに達し、五社の世界売上の39％を占め、2022年比で66％増という伸びであったと結論づけた。規則の網目をすり抜ける装置の流れが、地政学リスクに直結する構図が浮かぶ。
報告はさらに、装置メーカーの主要顧客に米政府の規制対象企業が含まれていた実態に踏み込む。2022〜2024年の間、米政府の指定リストにある中国企業が各社の中国ビジネスで上位顧客となっていたと整理した。加えて、中国向け売上の柱が国有企業に偏っている現状も示す。2024年には、五社の対中売上の69％が国有企業からのものだったとされ、国家の産業政策と装置の輸入が密接に結びついている構図が広がっている。
装置の中でも象徴的なのが露光装置だ。報告は、先端のEUVが禁輸対象である一方で、ひとつ手前の世代に当たる高性能DUVの輸出が国レベルで広く残され、中国側がその余白を使って装置を積み上げていると警鐘を鳴らした。規制の線引きが半歩古い装置に利を与え、生産能力の底上げを許しているという指摘である。
企業の反応と「規則の不一致」
特別委員会は、違法行為の立証ではなく、既存ルールの齟齬が生んだ現実の把握に主眼を置いたと説明する。一方で、委員会の公表を受けて、米欧日の装置メーカーには問いかけが集中した。2025年10月8日には、米メディアが委員会報告を詳報し、中国の装置購入額や売上比率の高さが改めて注目を集めた。規制の適用や運用が米・日・オランダで一致せず、米企業が売れない先に非米企業が装置を供給する「ねじれ」が発生してきたとする指摘は重い。
企業側の受け止めは割れている。東京エレクトロンの米国法人トップは、新たな規制の影響で中国向け売上が今年に入り減り始めたとしながらも、米国の観点から「まだ望ましい結果に至っていない」と語った。ASMLとKLAはコメントを控え、アプライドマテリアルズとラムリサーチは即時の回答を見送った。市場では装置株が神経質な値動きとなり、規制の先行きと各社の中国依存度を織り込む展開が続いているとみられる。
一方、委員会は非米企業の対中売上が規制強化の過程で相対的に増えた局面にも触れ、国内企業に比べて行動が縛られにくい「規則の不一致」がもたらす歪みを問題視した。装置企業は報告書の作成に協力したとされ、委員会は「現状は容認できない」として政策側の手当てを急ぐ必要を強調している。
求められる同盟の足並みと次の一手
報告書は処方箋も併記した。第一に、米国とオランダ・日本など同盟国の輸出管理を政策・執行の両面でそろえること。第二に、特定企業だけを縛る方式から、中国全土に広く適用する管理へと対象を拡大すること。とりわけ300ミリ対応の装置やDUV露光機など、ボトルネックとなる装置を「国単位」の規制に含めるべきだと訴える。第三に、規制対象企業の拡大と、関連子会社や迂回取引を封じる仕組みの強化が挙げられた。
あわせて、装置そのものに至る前段の「部品」も射程に入れる必要があるという。装置の重要部材や消耗品の輸出を見直し、通知や位置追跡といった執行手段を整える。さらに、違反通報を促すホイッスルブロワー制度の創設、商務省産業安全保障局（BIS）と国務省の体制強化、そして米・同盟国の装置企業が人材を育成・獲得できるよう支援することも柱に据えた。規制と産業政策を両輪に、装置の技術的優位を守る発想である。
立法面でも動きが見える。上院では2025年9月2日、国防権限法の修正案として「GAIN AI法案（Guaranteeing Access and Innovation for National Artificial Intelligence Act of 2025）」の条文が提示された。先端AIチップの流通管理を巡る議論は今後の審議に委ねられるが、輸出管理と国内供給の確保をどう両立させるかは、同盟国の産業にも直結する。日本の装置産業にとっても、米欧との制度の噛み合わせ方が競争力を左右する局面が続くとみられる。
