富士フイルム、AI半導体材料に130億円投資　静岡拠点で新棟稼働

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2025.11.30

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富士フイルムが11月25日に明らかにしたのは、静岡県吉田町の半導体材料拠点に開発・評価用の新棟を完成させ、11月から本格稼働を始めたという知らせだ。AIデータセンター向けなど先端半導体の需要が急増するなか、約130億円を投じて品質評価体制を強化し、供給の安定と高度化を同時にねらう。

AI需要が変える材料メーカーの現場

新棟が建てられたのは、グループの半導体材料子会社が運営する静岡工場だ。ここでは、回路を焼き付ける「レジスト」と呼ばれる材料などを手がけ、AI処理向けの高性能チップに欠かせない。今回の投資で、試作段階から量産直前までを一体で検証できる環境が整った。

富士フイルムのニュースリリースや電子業界メディアの報道によれば、同社の半導体材料事業はここ数年で売上規模を大きく伸ばし、急拡大するAI、5G、IoT向け半導体を支える柱になっている。　開発サイクルが短くなるほど材料評価の手戻りは許されず、現場では「より早く、より細かく不具合の兆候をつかむ」ことが共通の課題になっていた。

微細化が進む最先端チップでは、一つの材料トラブルがサーバー停止や大きな電力ロスにつながりかねない。材料側で歩留まりを高められれば、チップメーカーやデータセンター事業者の損失を抑え、最終的には利用者の負担軽減にもつながる。静岡の新棟は、その入り口で不確実性を減らす「見えないインフラ」として期待されている。

AIとDXで磨く品質評価と強靭性

新棟には高い清浄度のクリーンルームが設けられ、微小な異物まで検出できる検査装置が並ぶ。富士フイルムはAIによる画像認識技術も導入し、レジスト内部に含まれる微粒子の解析精度を高めたと説明している。人の目では追い切れない欠陥を早期にあぶり出し、不良発生の兆しをつかむ狙いだ。

工場内には、製造データを横断的に扱うデジタルトランスフォーメーション（DX）推進部門も置かれた。製造条件や検査結果をAIで解析し、最適なレシピを自動で提案することで、熟練者の勘に頼らない品質づくりをめざす。高度化した材料を世界中に安定供給するには、人材確保だけでなく、データとアルゴリズムを組み込んだ仕組みづくりが欠かせないという判断だ。

設備投資は災害への備えも兼ねる。静岡の新棟は免震構造を採用し、クリーンルームを上層階に配置して浸水リスクを抑えた。　熊本の拠点で研磨工程向け材料の生産能力増強を進めるなど、同社は他地域でも供給網の分散と強靭化を図っている。　自然災害が多い日本の工場が止まれば、海外の半導体メーカーにも波及するため、BCP（事業継続計画）の巧拙は取引先から厳しく見られている。

投資競争の行方と利用者が負うコスト

富士フイルムは国内外の生産拠点で設備増強を続けており、静岡の新棟もその流れの一つだ。　九州の別拠点で研磨後洗浄向け材料の能力拡大を図るなど、日本発の材料サプライチェーンを厚くする動きが各地で進む。背景には、先端半導体の供給源を特定地域に依存しすぎることへの国際的な警戒感もある。

一方で、こうした巨額投資の原資は最終的にチップ価格やクラウドサービス料金として利用者が負担する構造にある。データセンター事業者は電力効率の高いAI半導体を求め、その裏側で材料メーカーや装置メーカーが前倒しで設備を増やしている。需要が一時的に冷え込めば投資回収は長期戦となり、そのリスクを誰がどこまで負うのかは、今後も議論が続くテーマだ。

静岡の新棟完成は、一社の工場増設というニュースにとどまらず、日本の材料産業がAI時代のサプライチェーンでどの役割を担うのかを映す象徴的な出来事でもある。設備が整った先には、災害と需要変動に耐えつつ、利用者の負担を抑えるバランスをどう探るかという、長い付き合いの課題が静かに横たわっている。