地中海でガザ向け市民船団に爆発音、伊西が軍艦派遣

地中海の暗い海で、ガザに向かう市民船団が揺れた。支援物資を抱えた船々の上空に無人機が現れ、爆発音が続いたという。イタリアとスペインは救助のため軍艦を動かし、揺れる海に「安全に航行する権利」を掲げた。市民と国家、そして戦火の現場のあいだで、何を守り、どう届けるのかが問われている。

夜の海で起きたこと

2025年9月24日未明、パレスチナ自治区ガザを目指す「グローバル・スムード船団」が、ギリシャ沖を航行中に無人機の攻撃を受けたと発表した。暗闇の水平線の向こうで光が弾け、海面に反響する破裂音が途切れなく続く。船団側が公開した映像は、甲板に身を伏せながら様子をうかがう乗員の息づかいまで映し出し、緊張の空気を生々しく伝える。複数の船体が損傷したとされるが、死者は確認されていない。誰が放ったのか、現時点で攻撃主体は不明のままである。

この船団は約50隻で構成される。参加者は各国から集まり、総勢は500人超とされる。港を離れてからは、互いの距離を保ちながら細い線のように列を作り、波と風を読みながら進んできた。デッキに積まれるのは食料や医薬品だ。静かな海では、甲板越しに交わされる声が遠くまで響くが、夜間は灯火管制に近い運用が続く。

周辺では少なくとも15機の無人機が確認されたとの証言がある。上空からの威嚇飛行に加え、通信の妨害が続いたという報告もある。航行計器の反応が鈍り、互いの位置を確かめる術が限られるなかで、乗員たちは声と光で合図を繋いだ。攻撃を避けながら散開し、夜明け前に再び隊列を整えるまでの時間は、異様に長く感じられたはずだ。

イタリアとスペイン、海へ出る決断

2025年9月24日、イタリアのクロセット国防相は「身元不明者による無人機攻撃」を強く非難し、海軍のフリゲート艦を救助目的で派遣したと明らかにした。決定はイスラエル側にも通知済みとされ、現場海域に向けて艦が進発した。狙いは衝突の回避と、被害船の捜索・救助である。政治的立場を越え、平和的な示威や抗議が暴力に晒されないよう保護すべきだというメッセージも添えられた。

ニューヨークに滞在していたメローニ首相は、派遣艦について「軍事力の行使は想定していない」と説明した。波が荒れれば救難は危険を伴うが、救助と監視は両立し得るという判断である。海上の現場に届くのは、砲声ではなく支援と保護の意志だと示した格好だ。船団側にはイタリア国籍の参加者もいる。自国民保護という責務も同時に重なる。

2025年9月24日、スペインのサンチェス首相も海軍艦艇の派遣を表明した。市民が地中海を安全に航行する権利は守られるべきだと述べ、必要があれば救助に当たる考えを示した。会見の場は国連総会が開かれる街だ。外交の最前線で掲げられた「保護」の旗は、地中海の波間で見え隠れする不確実さに、別の秩序を差し向ける。

イスラエルの警告、欧州の慎重、揺れる正当性

イスラエル外務省は、今回の船団を「ハマスの船団」と呼び、イスラエル側での荷下ろしに応じない場合は「戦闘区域への進入を阻止するため必要な措置を講じる」とSNSで警告していたと報じられている。軍事作戦の只中に第三者が踏み込むことへの拒絶は一貫しており、封鎖の維持も譲らない構えだ。海は開かれていても、国家が線を引けば見えない境界が生まれる。

スウェーデン外務省は2025年9月24日付で声明を出し、船団の動向に強い懸念を示した。同国籍の参加者は約15人とされ、政府はガザへの渡航を厳格に控えるよう改めて求めた。海上では領海外であっても保護の手が届きにくい現実がある。救助艦の派遣や在外公館の支援が整っても、嵐と同じように、戦時の海は予測できない。

フランス外務省も、海上でのいかなる攻撃も容認できないとし、国際法、とりわけ国連海洋法の遵守を呼びかけた。各国の判断は微妙に異なるが、共通するのは「安全の確保」と「法の枠組み」の二本柱である。人道目的の航海は尊重されるべきだが、戦場に隣接する水域での行動は法的にも政治的にも複雑さを増す。

一方、船団は封鎖の現実を突きつける象徴でもある。誰が攻撃したのか特定に至っていない以上、断定は避けねばならないが、夜の海で続いた威嚇と混乱は消えない記録として残る。船団は進路を維持すると表明し、支援物資を届ける目的をあらためて強調した。今年6月には、ガザへ向かった支援船がイスラエル軍に拿捕される事態も起きている。航路をめぐる正当性は、政治と国際法、そして市民の意思の交差点で揺れ続ける。