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ベルリンの官庁街は週明けの空気が少し張りつめていた。2025年11月3日、ドイツのワーデフール外相が中国の王毅外相と電話で協議し、安全保障や経済政策など相互の関心事項を幅広く話し合った。中止されていた外相の訪中は近く再調整で一致し、中国側はメルツ首相の訪中もあらためて招請した。緊張と必要のはざまで、両国は対話の糸を繋ぎ直していると映る。
揺れる中独関係、電話越しの手探り
協議が明らかになったのは2025年11月3日である。両外相は電話で安全保障、経済政策、その他の相互関心事項を取り上げ、実務的に意見を交わしたとされる。会談形式は控えめだが、テーマは幅広い。足元の不信や誤解を積み重ねないために、まずは受話器越しに議題の輪郭を揃える作業が優先されたとみられる。
両者は、10月下旬に見送られたワーデフール氏の訪中を「近く」再調整する方針で一致した。ドイツ側は延期の経緯について詳細を語らない一方、中国側の会見日程など実務面で折り合いがつかなかったとの見立ても出ていた。高官往来の再設定は、止まりかけた歯車を回し直す最初の確認作業だといえる。
同時に、中国側はメルツ首相の訪中をあらためて要請した。新政権下での対中方針を首脳レベルで擦り合わせたい思惑が透ける。ベルリンにとっても、欧州の対中政策や産業政策の接点を探る上で首脳往来の意味は重い。電話の一報は、再起動に向けた可動域がまだ残っていることを示すシグナルでもある。
台湾と「一つの中国」、言葉の綾
一部報道によれば、中国側は今回の協議で「意見の相違は避けがたいが、双方は意思疎通、理解、相互信頼を強化すべきだ」と強調したと伝えられている。さらに、ドイツに対し「台湾独立」に反対する立場を求め、「一つの中国」原則が中独関係の最も重要な政治的基盤だとする主張を示したという。
このメッセージは唐突ではない。5月の初回電話協議では、中国外務省が公開した概要の中で、台湾問題を中国の核心的利益と位置づけ、ドイツ側の「一つの中国」政策の堅持に期待を示している。今回の通話も、その延長線上にある文脈が再確認されたとみるのが自然だろう。言葉の行間に、相互の「譲れない線」と「管理可能な余白」が同居している。
経済の影、サプライチェーンの硬直
緊張の背景には、レアアースや半導体をめぐる摩擦が横たわる。輸出管理や審査の強化は供給の不確実性を増幅させ、企業の在庫政策や投資判断に冷たい影を落としてきた。延期された訪中日程をめぐる駆け引きにも、実は個別分野のアクセス確保や協議枠組みの設計という、静かな実益の計算が滲む。
両国はいずれも輸出主導型の大経済であり、需要の鈍化や地政学リスクの増幅に敏感である。米国では関税を軸にした通商政策が再び前景化し、世界貿易の流れに新たな波形を刻みつつある。欧州連合と中国の間でも電気自動車などを巡る対立案件が積み上がる中、独中の経済・通商対話はマクロのうねりに抗う数少ない安全弁として機能しうる。
次の往来へ、針路をどこに取るか
再調整される外相訪中の議題は、安全保障、対露・対ウクライナ情勢、経済安全保障、気候や保健といった地球規模課題まで広がる可能性が高い。足元の技術・産業政策を巡る圧力は強いが、同時に相互補完の現実も否定できない。電話協議は、異なる価値観のもとで利害を接続する「継ぎ目」を探る予備交渉の性格を帯びる。
中国側は二国間関係を正しい軌道に乗せるため、安定的で持続可能な政策枠組みの確立を重視しているとされる。往来が現実の対話に置き換わるとき、言葉は書簡から共同声明へ、さらに具体の作業計画へと質量を増す。受話器の向こうにあった温度差をどこまで埋められるのか。近く再設定されるはずの訪中が、最初の試金石になるだろう。
