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官邸の執務室で紙束が手渡され、次の一手が動き出した。政府は「政府効率化局（仮称）」の創設に向けた調整に入った。租税特別措置（特定の目的で税負担を軽くする特例）や補助金の政策効果を横断的に点検し、効果が低い支出の廃止と財源の再配分につなげる狙いだ。2025年11月11日には日本維新の会が総合経済対策の提言を高市首相に提出し、12日には新組織の検討が報じられた。与党内では同日、自民党も物価高対策などの提言を手渡しており、歳出の「選択と集中」をどう設計するかが問われる局面である。
点検の対象とめざす姿
新たな効率化局は、租税特別措置と補助金の双方を俎上に載せる構想だ。狙いは「政策の打ちっぱなし」を避け、事後検証で成果の薄い支出を整理し、成長や生活支援に資する分野へ資金を振り向けることにある。補助金は同じ目的でも省庁別に制度が分かれることが多く、重複や効果のばらつきが生じやすい。税の優遇は見えにくい歳出とも言われ、減収分の規模や効果の把握に専門的な分析が要る。
政策評価（施策の効果を事前・事後に点検する仕組み）は各省庁で進むが、税と補助金を一体で“横串”に検証する常設機能は限定的だった。効率化局はここを埋める役割を担う。例えば、同じ脱炭素や研究開発を目的とした優遇税制と補助事業を束ね、費用対効果や民間投資の呼び水としての寄与度を同じ物差しで比べる。数値の見える化とともに、廃止・縮減と新規投資への乗り換えまでを一連の流れとして扱うことが肝になる。
連立合意が押した後押し
効率化局の設置は、自民党と日本維新の会の連立政権合意に盛り込まれた。2025年10月の合意後、維新は無駄の徹底削減と規制・構造改革を一体で進める方針を掲げ、11月11日に高市首相へ総合経済対策の提言を申し入れた。提言は、当面の物価高対策だけでなく、歳出改革を成長戦略の中心に据える姿勢を明確にしている。効率化局は、その実務を担う「手」として位置づけられる。
一方、自民党も同日に政府の対策取りまとめに向けた提言を提出した。ガソリン税の扱いや電気・ガス料金支援など、物価高対策を前に出しつつ、成長投資の加速も掲げる。連立パートナーの改革色と、自民の景気下支えの発想が交差する中で、効率化局の役割は歳出カットの「盾」だけでなく、財源の「橋渡し」としての性格を帯びる。重い予算配分の議論に、検証データで踏み込めるかが勝負どころになる。
「規模感」の綱引きと設計の急所
11月11日、自民党の小林鷹之政調会長は提言提出後に「規模感は財政当局と乖離がある」と述べ、積極的な財政出動の必要性に言及した。物価高対策や危機管理投資を広げたい与党側の思惑と、財政規律を重視する当局の視点がぶつかる構図は、過去の補正編成でも繰り返されてきた。効率化局の創設は、この綱引きの中で「歳出の質」を高める口実にもなるが、同時に「何をやめるか」を明確に示す責任も伴う。
設計での焦点は3つある。第1に設置場所だ。内閣官房案が取り沙汰されるが、各省をまたぐデータアクセスと勧告権限がどこまで確保できるかが要。第2に評価手法で、税優遇の減収効果や補助の追加性を統一指標で測る基盤づくりが要る。第3に実行力で、廃止・縮減の判断を予算編成・税制改正に確実に接続する「出口」を明示できるか。連立が掲げた改革色を実務に落とし込めるかは、この設計の精度に左右される。
官邸の廊下を行き交う足音が一段落し、分厚いファイルだけが机に残っている。選び直しの作法は、静かに制度へと形を帯び始めた。
