エイラートで無人機落下、20人負傷 フーシ派主張

イスラエル南部エイラートで、日本時間2025年9月25日未明、イエメンから発射されたとみられる無人機が市中心部に落下し、少なくとも20人が負傷した。うち2人は手足に重いけがを負ったと救急当局が伝えている。イスラエル軍は迎撃を試みたが阻止できず、イエメンのフーシ派が作戦の実施を主張している。

砂漠の港町で何が起きたか

紅海に面した観光都市エイラートの中心部で、夕刻の喧噪が一瞬で遮られた。無人機が建物の近くに落下し、現場には黒煙が立ち上った。イスラエル軍は、無人機がエイラート周辺に落下したとの報告を認め、空軍が迎撃を試みたと説明した。救急組織マゲン・ダヴィド・アドムは、負傷者を市内のヨセフタル病院へ次々と搬送。現場では警察の爆発物処理班が残骸を調べ、周辺住民に現場へ近づかないよう呼びかけた。地元テレビは、上空を飛ぶ機影が建物の陰に消え、ほどなく白煙が立つ映像を生中継で流した。観光客が行き交う歩道には破片が散らばり、救急隊の赤いライトが砂色の街並みに反射していた。市中心部という立地から、被害は観光エリアの動脈にも及び、負傷の多くは破片と衝撃によるものとみられる。

当局は、爆発の原因物の種類や搭載物の有無を慎重に検証している。初動では防空網の作動状況も点検対象となり、迎撃試行の詳細やアラートの発報手順などが焦点だ。現時点で意図せぬ二次爆発の危険は低いとみられるが、警察は現場での不発物への接触を固く禁じている。負傷者の容体は重傷者に加え、背部の破片で中等症となった事例が確認され、ほかは軽傷が大半という。市は周辺道路を一時封鎖し、観光客の流れを迂回させた。砂漠の空気に焦げた匂いが残るなか、ヘリが負傷者搬送に加わり、救急車のサイレンが山肌に反響していた。

フーシ派は何を狙ったのか

イエメンのフーシ派は、複数の無人機による「敵対目標」への攻撃が成功したと発表した。一方、イスラエル軍は無人機がエイラート周辺に落下した事実を明らかにし、迎撃試行があったとだけ述べている。負傷者数については報道で幅があり、現地メディアや国際通信社の更新では22人との情報もある。いずれにせよ、南端の観光都市に無人機が到達したことは、地域の防空網にとって痛手であり、住民の心理に長い影を落とす。イスラエルの治安当局は、残骸の解析を通じて航跡と飛来高度、弾頭の改造の有無を洗い出し、次に備える構えだ。

政治レベルでも反応は素早い。イスラエルの国防相は、継続する攻撃に「代償を払わせる」と警告した。紅海と陸路の双方から圧力をかけるフーシ派に対しては、すでに報復空爆が繰り返されており、今回はその連鎖の一環として位置づけられる可能性が高い。越境攻撃の実行主体が国家ではない点は、抑止の難しさを増幅させる。海上交通を狙った作戦と組み合わされば、紅海航路やシナイ半島に近いエイラートのリゾート機能は脆弱になりやすい。市民生活と観光経済に対する間接的な圧迫が、軍事的な打撃と同じくらい重い意味を持ち始めている。

連鎖する報復とエイラートの緊張

エイラートへの攻撃は今回にとどまらない。今月上旬には、市北方のラモン空港に無人機が衝突し、空港の旅客エリアが損傷した。救急当局によれば、この際に男性が破片で負傷し、周辺では不安症状を訴える人も出ている。防空部隊は同日に他の無人機を複数撃墜しており、見逃した一機が空港に達した構図が示された。空域は一時的に閉鎖され、その後の点検を経て再開された。こうした「すり抜け」は、迎撃体系の技術的限界というより、人為的な識別や交戦手順の綻びが重なった結果との見立てもある。検証が進めば、警報発報の閾値や交戦規則の調整が議題に上るだろう。砂漠と海に囲まれたこの街は、地理的に回廊の終点であり、航跡がそのまま都市の脆弱性に直結する。

より長い射程からの脅威も続いている。2024年7月19日には、テルアビブで無人機が集合住宅に直撃し、1人が死亡、10人が負傷した。フーシ派はこの攻撃の実行を主張し、イスラエル軍は発射地をイエメン方面と推定した。以降、エイラートは繰り返し標的となり、海の向こうから飛来する機体が観光都市の空を横切る光景は珍しくなくなった。迎撃成功の比率が高い局面でも、わずかな漏れが市街に届けば、人的・心理的な被害は避けられない。今回の負傷者の多くが破片と転倒による軽傷であった事実は、不発や小型弾頭であっても市街地で危険が拡散することを示す。現時点で確認されている範囲では、被害は限定的だが、連鎖する攻防の中で「日常」を保つコストは確実に上がっている。

エイラートの海風は普段と変わらず乾いていたが、街には緊張が滲む。避難手順の徹底や現場封鎖の判断は迅速だったものの、住民の疑問は尽きない。なぜ防空網を抜けたのか、次も防げるのか。イスラエル軍は迎撃試行の詳細を詰め、警察や自治体は観光の回復と安全確保の両立を迫られる。フーシ派はガザ情勢への連帯を名目に攻撃継続を示唆しており、紅海の緊張は収まる気配を見せない。空が再び静けさを取り戻すまで、この街は足元の破片を片づけながら、次のサイレンに耳を澄ませることになる。