インド防衛大手がモスクワで非公開協議　ロシア製兵器部品の現地生産を検討

インドの大手防衛企業の幹部らが今年10月末、ロシアの首都モスクワで開かれた非公開の会合に出席し、合弁事業の可能性を協議していたことが分かった。アダニ・ディフェンスやバーラト・フォージなど複数社が参加し、ロシア製兵器の部品をインドで製造する案が話し合われたという。ロシア依存を減らしつつ西側との協力も進めたいインドにとって、微妙な綱渡りとなる動きだ。

ロシア製装備を抱える現場、部品不足への不安

インド軍は戦闘機MiG-29や防空システム、戦車など、多くの主力装備を旧ソ連・ロシア製に依存してきた。近年は調達先の多角化が進んだものの、依然として装備全体の約3分の1はロシア起源とされる。ウクライナ侵攻後は制裁や物流の混乱で部品供給の遅れが懸念され、前線の運用維持が長期的な課題になっている。

今回明らかになった会合は、10月29〜30日にモスクワで開かれた政府の防衛産業代表団訪問に合わせて行われた。代表団を率いたのはインド国防生産局のサンジーブ・クマル局長で、その傍らで企業側とロシア側が個別協議を実施。ロシア製戦闘機や防空兵器のスペア部品をインド国内で生産し、場合によってはロシアへの輸出も視野に入れる構想などが議題になったという。

出席者は、民間大手コングロマリットの防衛部門や国営企業、新興のドローン・AI関連企業まで幅広い。中でもバーラト・フォージは、ロシア製戦車や航空機向けの部品や将来のヘリコプター分野での協業を探ったとされる。アダニ・グループの防衛子会社トップや、500社超を束ねる業界団体「インド防衛メーカー協会」の代表も参加したと報じられ、現場の装備維持をどう支えるかが産業界全体の関心事になっている。

西側技術と制裁リスクのはざまで揺れる計算

モスクワでの会合は、12月初旬に行われたプーチン露大統領とモディ印首相の首脳会談とも地続きだ。両国は共同声明で、防衛分野の協力を「共同研究・共同開発・共同生産」へと再構築し、インド国内でロシア製装備向け部品を製造する合弁事業を後押しする方針を確認した。インド側は「メイク・イン・インディア」を掲げ、防衛装備の国産化と輸出産業化を加速させたい考えだ。

一方で、ロシアとの協力を深めることは、西側との関係に影を落としかねない。欧米の外交当局者は、インド軍の装備に占めるロシア製の比率や長年の技術協力が、「先端技術の移転には障害になる」と繰り返し指摘してきた。インドは米欧との共同開発にも力を入れ、世界的な防衛生産拠点を目指しているが、新たな露印合弁はその戦略と相反する面を持つ。バーラト・フォージ傘下企業が欧州向け砲弾輸出を巡り、ウクライナへの迂回供給疑惑でロシアから抗議を受けた経緯もあり、各社は自らの一挙手一投足が大国間の思惑に直結することを痛感している。

さらに企業側が神経をとがらせるのが、対ロシア制裁の「二次制裁」リスクだ。インド政府は外交ルートを通じた調整で一定の防波堤を築けるとみるが、最終的な政治リスクは各社が自ら判断せざるを得ない。報道を受け、アダニ・グループは幹部の会合出席を否定しており、公に認めれば西側・ロシアの双方からの視線が一段と厳しくなることも計算しているとみられる。既存のロシア製装備を動かし続ける必要と、将来の西側協力を閉ざさない配慮。その間で、インド防衛産業はどの協力を深め、どこで距離を取るのかという難しい選択を迫られている。

参考・出典

• Top Indian arms makers held rare meetings in Russia on potential joint ventures, sources say
• India and Russia to strengthen defence cooperation, national currency settlements
• India seen as ‘reorienting’ bilateral defence relations with Russia
• India Explores Deepening Defense Co-Production With Russia – Reuters – The Moscow Times