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住宅街を切り裂く爆音に、ベイルート南部の住民が一斉に窓から身を引いた。レバノンの首都で2025年11月23日、イスラエル軍が空爆を実施し、イスラム組織ヒズボラの軍事部門トップ、ハイサム・アリ・タバタバイ参謀総長を殺害したと発表した。レバノン保健省は、この攻撃で5人が死亡し28人が負傷したとしている。
首都ベイルートを初めて直撃した「参謀総長殺害作戦」
イスラエル軍は、今回の空爆がベイルート南部ダヒエ地区の集合住宅を狙った精密攻撃だったと説明している。同軍によれば標的はヒズボラの参謀総長タバタバイ氏で、組織の軍備再建を主導しイスラエルへの新たな脅威となっていたと位置付けた。首相府は国防相と軍参謀総長の勧告を受け、ネタニヤフ首相が攻撃を命じたとしている。
ベイルートが空爆されるのは、イスラエルが地下の無人機施設を標的にした2025年6月以来とされる。一方でレバノン南部では、米国仲介の停戦合意が成立した2024年11月以降も、ヒズボラ拠点とされる地域への空爆が断続的に続いてきた。今回の首都攻撃は、停戦下でも作戦の範囲を広げる動きとして受け止められている。
イスラエル側は、作戦は「再武装を阻止するための先制措置」だと主張するが、レバノン政府は主権侵害だとして強く非難した。米政府関係者によれば、ワシントンは事前通告を受けておらず、停戦維持を優先する立場から情勢の一層の緊張を懸念している。国際社会からは自制と対話を求める声が相次いでいるとの指摘も出ている。
タバタバイ氏の素性と、ヒズボラへの長期的な打撃
タバタバイ氏は1968年生まれとされ、若い頃からヒズボラに参加し、精鋭部隊「ラドワン部隊」を率いた経歴を持つ。シリア内戦やイエメンなど域内紛争にも関与したとされ、2023～2024年のイスラエルとの大規模衝突では作戦部門の中心的な指揮官だった。その後は参謀総長として、失われた戦力の立て直しを担ってきたとみられる。
米国は2016年、タバタバイ氏を国際テロリストに指定し、情報提供に最大500万ドル、日本円で約7億8000万円の懸賞金をかけていた。米財務省の制裁リストに名を連ねる人物が現役の軍事トップとして活動していたことは、ヒズボラが長年にわたりイランの支援を受けつつ域外へも影響力を広げてきた現実を象徴している。
ヒズボラは声明で、タバタバイ氏の死亡を確認しつつ「卑劣なイスラエルの攻撃だ」と非難し、報復を示唆した。人口が密集するダヒエの路上には、黒い煙と救急車のサイレンだけでなく、自宅を失う不安を抱えた住民の姿もあった。組織の中枢を狙う一撃は、前線から離れた街区の日常にも、静かだが深い影を落としているように見える。
