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紙資料が机の上を次々と滑っていった。エネルギー政策を議論する政府会合で、核融合発電の研究開発に総額1000億円超を投じる方針が共有された。新興企業の技術を育て、研究拠点を整え、2030年代に発電実証を行うという、日本のエネルギー戦略の新たな節目である。脱炭素とエネルギー安全保障を両立させる切り札として、静かに期待が高まっている。
1000億円超の投資はどこへ向かうか
政府は2025年11月25日、核融合発電の研究開発を加速させるため、総額1000億円超を投じる方針を固めた。資金は2025年度補正予算案に盛り込み、国債の活用も検討する。柱となるのは、新興企業への支援、企業と大学が装置を共同利用できる研究拠点づくり、そして国際プロジェクトへの参加強化だ。ばらばらに進んできた国内の研究をつなぐ「土台」を、まず整える狙いがある。
中でも大きな比重を占めるのがスタートアップ支援である。経済産業省は3年間で約600億円を確保し、部材や装置の開発を段階ごとの目標に沿って後押しする仕組みを検討中だ。目標を一つずつ達成した企業には支援を継続し、失敗した案件には次の資金を出さない。限られた公的資金で、世界の技術競争に食らいつくための「選択と集中」を進める考えだ。
こうした支援の土台になる技術が、そもそもの核融合発電だ。核融合発電は、水素などの軽い原子核を高温高密度でぶつけて融合させ、大量のエネルギーを取り出す仕組みである。発電時に二酸化炭素を出さず、暴走しにくいとされる点が特徴だ。フランスで建設が進む国際実験炉ITERで培われた部品製造やプラズマ制御の経験を、国内拠点で企業や大学に広く共有することも視野に入っている。
世界の競争と日本の2030年代目標
なぜ今、ここまで踏み込んだ支援が必要と判断されたのか。背景には、核融合をめぐる世界的な投資競争がある。米国や中国では民間企業に数千億円規模の資金が流れ込み、欧州でも政府が実証プラント建設を後押しする構想が議論されている。国内の研究者からは、原型炉まで見据えれば2兆円規模の公的投資が必要だとする試算も出ており、1000億円超の今回の措置は、その入口にすぎないとの見方もある。
国内でも、核融合炉の設計や周辺機器の製造に挑むスタートアップが次々と生まれている。大手企業からの出資を受ける例も増え、高度なものづくり技術や次世代高温超伝導マグネットの開発など、日本が強みを持つ分野が前面に出始めた。政府が今回の支援策で狙うのは、こうした企業が実験装置や材料開発の段階を一気に駆け上がり、2030年代の発電実証に必要な部品やシステムを国内で供給できる体制を整えることだ。
日本の核融合戦略は、2030年代に「発電が可能だ」と示すことを当面の目標に掲げる。高市早苗首相は2025年10月の所信表明演説で、核融合を早期の社会実装を目指す重点投資分野と位置づけた。実用化まではなお長い道のりだが、脱炭素とエネルギー安全保障を同時にかなえる技術として、研究者や企業のまなざしは一段と真剣になっている。今回の1000億円超の決断は、その視線の先にある未来を、少しずつ輪郭のある姿として浮かび上がらせている。
