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21日の閣議後、東京・霞が関の記者会見室に人いきれが漂った。武藤容治経済産業相は、米国から日本に伝えられた「ロシア産エネルギー輸入の停止」期待について問われると、ロシア産LNGが「エネルギー安全保障上、極めて重要な役割を果たしている」と強調した。国際社会との連携を掲げつつ、輸入停止の是非は明言せず。国益と協調のはざまで、日本の選択が改めて問われていると映る。
国益と協調のはざまで見えた逡巡
武藤氏が言葉を選んだのは、日米関係の文脈が重いからだ。今月、米財務長官が日本側に対しロシア産エネルギーの購入停止を期待すると公に発言した経緯がある。ウクライナ侵攻以降、日本はG7と歩調を合わせ制裁を拡充してきたが、エネルギー調達は国民生活に直結する。会見では「国際社会と緊密に連携しつつ、国益に基づき適切に対応する」との姿勢を繰り返し、踏み込みは避けた。強まる圧力と国内事情の板挟みがにじむ。
現時点で確認されている範囲では、同日の詳細な発言録は公開されていない。一方、これまでの政府説明や各国発言から輪郭は見える。日本はロシア産原油の段階的削減でG7と合意する一方、LNGは供給の安定性から継続輸入の余地を残してきた経緯がある。米国は同盟国に依存縮小を促すが、日本側は「国益」を前面に据えた。会見場に漂った含みは、単純な二者択一ではない現実を物語る。
サハリン2が背負う比重と電力料金の懸念
焦点はサハリン2である。日本が輸入するLNGの約1割は同プロジェクトに由来し、国内の発電量全体の約3%を支えるとされる。数字が示すのは代替の難しさだ。長期契約や受入基地の制約、スポット市況の変動が絡むため、短期の置き換えは現場の運用にも跳ね返る。武藤氏が「極めて重要」と重ねた背景には、調達リスクが連鎖して電力の安定供給に及ぶ恐れがあるという冷ややかな計算があるとみられる。
一部報道によれば、調達先の切替は電気料金の上昇につながる可能性にも言及があったという。ただ、価格転嫁は国際ガス価格、為替、規制コストなど複合要因で決まる。年度途中の供給構成の崩れは、電力各社の調達費を押し上げやすい。燃料調整の枠組みがあるとはいえ、需給が逼迫すれば市場価格の波が家計や企業の明細に届く。数字の裏側で、発電計画や保守の織り直しが迫られる現実も浮かぶ。
強まる外圧と日本の打ち手
米国の意向は明確である。財務長官は日本の輸入停止への期待をSNSでも示し、対露制裁の実効性を高める狙いを隠さない。欧米は第三国経由の資金や物流の抜け穴を塞ぐ対策も強めている。こうした動きはアジアの需要国に波及し、日本にも選択を迫る。だが、制裁の網を細くするほど、現場は調達と価格のリスク管理に追われる。日本は原油では歩調を合わせつつ、LNGでは当面の安定確保を優先する構えがにじむ。
当面の現実的な選択肢は、依存度の着実な低下と供給源の多層化だ。既存の長期契約を尊重しつつ、米豪中東や新興プロジェクトとの組み合わせを厚くする。再エネと需要側の柔軟化でピークを平らにし、LNGへの片寄りを抑える。政府は国際協調の枠内で制裁の実効性を維持しながら、国内の価格高騰と停電リスクを最小化する舵取りが要る。21日の会見は、その綱渡りの難しさを静かに映し出したと言える。
