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サイレンの音が鳴りやまない夜、消防隊員が炎に包まれた住宅へはしごを掛け、救急車のストレッチャーが暗い路上を行き来した。2025年11月23日深夜、ウクライナ東部の主要都市ハルキウがロシア軍の無人機攻撃を受け、少なくとも4人が死亡し、十数人が負傷した。同じ頃、遠く離れたスイス・ジュネーブでは、戦争終結の行方を左右しかねない和平案をめぐり、米国やウクライナ、欧州の高官たちが会議室で向き合っていた。
住宅地を襲った無人機と続く緊張
ハルキウ市では23日夜から24日未明にかけ、多数の無人機が飛来し、市内少なくとも2つの地区で火災と建物の破壊が確認された。地元当局によれば、住宅3棟とインフラ施設が炎上し、市長イーホル・テレホフ氏は通信アプリで「民間の建物やインフラが狙われ、人々が命を落としている」と強い危機感を示した。ハルキウ州のオレグ・シネグボウ知事も攻撃を「大規模」と表現し、軍事施設ではなく、市街地への打撃であることを強調した。負傷者は当初17人とされ、その後の集計で13人に修正されたと伝えられており、子どもも含まれているという。
この地域では2025年に入ってから攻撃が激しさを増しており、前週には州内の別の町でも10人近い負傷者が出る夜間攻撃が報告されている。前線から離れた場所でも被害が相次ぐのは、ロシア軍が長距離無人機やミサイルで都市インフラを標的にする戦術を続けているためだ。電力施設や交通網が損なわれれば、軍だけでなく市民生活全体が弱体化する。ハルキウは戦争前、教育や産業の中心都市として機能してきたが、長引く攻撃で避難者が増え、復興計画もたびたび見直しを迫られている。空襲警報の回数が増えるたびに、日常と非常時の境界はあいまいになりつつある。
ジュネーブ協議とトランプ案、和平をめぐる駆け引き
こうした状況の中で開かれているのが、スイス・ジュネーブでの和平協議である。23日、米国務長官マルコ・ルビオ氏は、ウクライナや欧州の代表団と共に、戦争終結に向けた米国提案について協議し、「これまでで最も実りのある会合の1つだった」と述べた。協議のテーブルにあるのは、トランプ政権が提示したとされる28項目の和平案だ。米メディアなどによれば、この案はロシア側とも調整されており、ウクライナ軍の大幅な縮小や、ロシアが占領する地域を含む領土の割譲、長距離兵器の保有制限など、これまでウクライナが「越えられない一線」としてきた条件が多く盛り込まれていると報じられている。
トランプ大統領はウクライナ側に対し、11月27日までに計画を受け入れるよう迫っているとされ、一部報道では、拒否した場合に米国の軍事支援を大幅に絞る可能性まで示唆されている。ウクライナ政府は、国家主権と安全保障に関わる「赤線」を守る姿勢を崩しておらず、案の修正を求めつつ、米欧との協議を続けている。欧州各国は、自らが提案する対案も含めて調整を進めており、和平案が単なる停戦で終わらず、将来の再侵攻を防ぐ枠組みとなるかが焦点だ。ジュネーブで交わされる文言の一つひとつの裏側には、ハルキウのような都市で続く空襲と、そこで暮らす人々の避難生活が静かに重なっている。
焼け落ちた建物の前で消火活動が続くその同じ夜、遠く離れた会議室では新たな文案が印刷され、修正の赤字が増えていく。紙の上で交わされる取引が、次の空襲警報の回数を少しでも減らすのかどうか、ハルキウの人々の暮らしは静かにその行方を見つめている。
