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カラカスの空気は重い。2025年10月24日、ニコラス・マドゥロ大統領が米国を「戦争をねつ造している」と強く非難した。米側がカリブ海で麻薬対策を名目に軍備増強を進めるとの受け止めが背景にある。緊張の針はわずかに右へ傾き、地域の安全保障に新たな波紋が広がっていると映る。
マドゥロ氏の言葉が映す不信
国営メディア向けの発言と伝えられた言葉は激しかった。「新たな永遠の戦争をねつ造している」。国内の支持層に向け、外圧への反発を鮮やかに描く常套句が並ぶ。近年の治安悪化や経済難と結びつく不満を外に向ける構図が浮かぶ一方、事実関係の確度は慎重に見極める必要があるとみられる。
一方のワシントンでは、ベネズエラ発の犯罪ネットワークへの視線がいっそう厳しい。2025年3月、米政権はヴェネズエラ由来の犯罪組織「トレン・デ・アラグア」を重大な脅威と位置づけ、同組織と政権側の結び付きを強く指摘した。麻薬や人身取引を「武器」とする攻勢を断ち切るという論理が前面に出ている。
マドゥロ政権はこうした見方を退けてきたが、米側のフレーミングは国内世論の支持を得やすい。国境や街角の治安不安と結び付けられれば、強硬策の正当性は増す。激しい応酬の背後で、内政と外交が絡み合う構図が色濃くにじむ。
空母「ジェラルド・R・フォード」をめぐる事実関係
24日に米国防当局が同空母を地中海から米南方軍の管轄へ移すよう命じたとの報道が出回った。しかし、現時点で一次情報からその移動命令を確認できていない。米海軍の公式発表で直近の足取りを見ると、同空母は2025年9月16日にノルウェーのオスロへ寄港し、欧州司令部エリアで活動していた事実が残る。
仮にカリブ海方面へ向かうなら、最大級の航空戦力が麻薬取締りや監視の傘を広げるシグナルとなる。ただ、地上標的への直接攻撃を含む作戦が即時に始まるとは限らない。移動が抑止や威嚇の性格を帯びる可能性もある。現時点で米側から作戦詳細の正式な開示は確認されていないとみられる。
米国防総省では2025年にピート・ヘグセス氏が長官に就任した。抑止の再構築や国土防衛の強化を掲げ、国防費の使途見直しや即応性の向上を打ち出している。広報面ではショーン・パーネル氏が発信の中心を担い、各国歴訪や運用に関する声明が矢継ぎ早に出る状況が続く。
揺れる「麻薬戦争」と地域安全保障
米政権は南米・カリブ海の犯罪組織を、国内の治安悪化や越境犯罪の震源とみなす。2025年3月の大統領布告は、トレン・デ・アラグアの脅威を法的枠組みの中で強く位置付け、取り締まりの正統性を補強した。目的は密輸網の寸断と「麻薬を武器にする」構図の解体にあると映る。
他方、ベネズエラ側は主権侵害の懸念を前面に出し、体制転換を狙った圧力だと反発する。軍備増強の可視化は、政権の結束を促す副作用も生む。海上での監視強化が続くほど、偶発事案のリスクは上がる。法的根拠や指揮系統の透明性、同盟国・周辺国との調整の度合いが試される局面である。
事実関係として今後の焦点は三つある。空母の実動向と任務の正式発表、海空域でのルール運用の具体化、そしてベネズエラ側の追加措置である。強い言葉の応酬を超え、一次情報の積み上げで実像を確かめる作業が要る。緊張が熱へ転じるのか、静かな抑止へ収れんするのかが問われている。
