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9月28日に行われたモルドバの議会選で、欧州統合を掲げる与党「行動と連帯（PAS）」が単独過半を維持した。国際監視団は選挙の競争性を評価する一方、偽情報や違法資金、サイバー攻撃などの干渉が選挙過程に影を落としたと指摘した。親欧米路線の継続が確実となる一方で、社会の分断と外部からの揺さぶりにどう備えるかが問われる局面である。
選挙の行方を決めた一日
静かな朝、首都キシナウの投票所には家族連れや若者が途切れなく足を運び、投票管理官が身分証を確かめながら一票を受け付けていた。投票箱のそばではボランティアが動線を整え、候補者名の掲示板を指さして最後の確認をする姿があった。緊張と日常が同居した空気のなかで、国家の進路を選ぶ作業が淡々と進んだと映る。
結果は明快だった。PASが55議席を獲得し、単独で過半数を確保した。最大野党は親露系の「社会主義者・共産主義者愛国連合（愛国ブロック）」で26議席、続いて「オルタナティブ・ブロック」が8議席、「我らの党」と「民主主義は我々の家」党がそれぞれ6議席を得た。投票率は54.7％で、有権者の意思が改めて議会の構図に刻まれたといえる。
10月6日に中央選挙委員会（CEC）が最終結果を承認し、翌7日に憲法裁判所へ必要書類を送付した。法定の手続きを経て選挙の合法性と当選者の任期が確定する流れであり、選挙管理の透明性を担保する仕組みが機能しているとみられる。体制の継続と同時に、権力の正統性を裏づけるプロセスが重ねられている。
にじむ干渉と偽情報
9月29日に国際監視団が示した暫定評価は、選挙が「競争的」で有権者に実質的な選択肢を提供したと認めつつ、重大な懸念を列挙した。外国からの干渉、違法な資金の流入、そして投開票日の前後に連鎖したサイバー攻撃と偽情報の拡散が、信頼を揺るがす要因として浮かんだのである。
とりわけロシア発とされるハイブリッドな手口が目立ったと監視団は指摘した。闇経路を通じた資金の供給、世論を試す偽の世論調査、SNSでの悪意ある物語の増幅、行政機関や選管へのサイバー攻撃などが重なり、政治的対立線を鋭くする構図が見えてくる。政府側も対策を講じたが、脆弱性を突く動きは途切れなかったと映る。
他方で、法制度は国際基準におおむね適合しており、投票・開票・集計の主要プロセスは監視下で実施されたと評価された。ただし、選挙法の改正が頻繁で、施行直前の変更もあったため、法的確実性が損なわれたとの指摘もある。制度を磨き上げる作業と、情報空間の健全性を守る取り組みは、次の選挙に向けての課題として残った。
欧州志向が映す期待と不安
PASの勝利で、司法改革や汚職対策、公共部門の近代化など、欧州連合（EU）加盟へ向けた制度整備は加速が続くとみられる。価格高騰や地域格差など身近な課題に成果を示せるかが、路線継続への信任を左右する。与党には、期待と疲労の入り混じる世論をどう支えるかという現実的な宿題がのしかかる。
一方、愛国ブロックの26議席に加え、新興勢力の進出で議会は顔ぶれが多様になった。オルタナティブが8議席、「我らの党」と「民主主義は我々の家」党が6議席ずつを獲得し、委員会や法案審議での駆け引きは一段と複雑になる。多数派の安定と、異なる支持基盤の声をすくい上げる包摂の両立が試される場面である。
外部からの圧力は今後も変化し続けるだろう。資金の透明化や電子的な監視手段の強化、メディアリテラシー教育、重要インフラのサイバー防御といった多層の対策が、政治的中立性と表現の自由を両立させながら求められる。選挙の正当性を日々の統治の積み重ねで補強できるかが、次の勝敗を分けると映る。
